韓国政府は、フィジカルAIのフルスタック技術の国産化を進める。製造、農業、国防、介護などへの適用拡大を視野に入れ、今後3年を競争力確保の正念場と位置付けた。2028年には関連技術を輸出するグローバル先導国へと飛躍することを目標に掲げる。
科学技術情報通信部は7月1日、「フィジカルAI中核競争力確保戦略」を公表した。政府横断のデータ収集・活用体制を構築し、フィジカルAIの基盤モデルやワールドモデルなどの中核技術を開発することで、同分野で世界トップ水準の競争力確保を目指す。
フィジカルAIは、言語や画像を理解する生成AIを一歩進め、実環境を認識したうえで予測・推論し、現実世界で直接行動する技術を指す。主な適用先としては、ロボット、自動運転車、ドローン、知能型製造設備が挙げられる。
政府は、フィジカルAIを生産性の停滞や人口減少、災害・安全保障上の危機、介護人材不足といった社会課題の解決につながる中核技術とみている。今後3年を主導権確保の「ゴールデンタイム」と判断し、同部を中心に先導技術の開発とエコシステム拡大を進める方針だ。
◆省庁横断でデータ集約、独自モデル開発を後押し
まず、省庁や産業分野ごとに分散しているフィジカルAI関連データを一元管理する政府横断の体制を整備する。政府事業で生まれたロボットの行動データに加え、製造、モビリティ、農業分野の現場データも集積する。有効性の検証や相互運用に向けた標準整備を進め、データ品質の向上につなげる。
企業が必要とする汎用的な行動データを確保し、AIモデルの学習や実証に活用できる環境も整える。実際の現場で取得が難しい、あるいは危険を伴う状況のデータについては、シミュレーションで生成した合成データを活用する計画だ。ソン・チャンジョン同部デバイスAX革新チーム長は「合成データをうまく作ることが重要だ。特にシミュレーターによる合成データは、実際の現場に合った構成を備える必要がある」と述べた。
フィジカルAIの基盤モデルとワールドモデルの開発にも着手する。基盤モデルは、ロボットや機器が自律的に作業計画を立て、長時間の作業や精密操作をこなすための汎用モデルと位置付ける。ワールドモデルは、現実世界の変化を事前に予測・シミュレーションし、AIの学習や意思決定を支援する役割を担う。
今年からは、LG Electronics、MaumAI、KT、KAIST、ソウル大学などで構成するコンソーシアムが、ワールドモデルを中心に基盤技術の確保に取り組んでいる。情報通信企画評価院(IITP)は、来年までにフィジカルAIモデルの学習に向けたワールド基盤モデル技術開発事業を進め、移動型ロボットやヒューマノイドで実用化できる水準への引き上げを目指す。
分野別の特化デバイス開発も強化する。採卵鶏向けロボットや水上ドローンなどの専用機器に加え、人間レベルの微細な動作が可能なヒューマノイドの中核技術も開発する。併せて、ロボット・機器間通信に必要な低遅延・高信頼ネットワークや、フィジカルAIシステムの全ライフサイクルをカバーするセキュリティ技術も整備する。オンデバイスでAIモデルを遅延なく動かすため、超低遅延・低電力・高性能のAI半導体ベースのコンピューティングプラットフォームも開発する。
◆製造実証を起点に国防・介護・農業へ展開
同部は、製造分野で検証した技術を、災害・安全、国防、介護などの公共分野や、農業、モビリティといった産業分野に広げる方針だ。
災害現場では、人が近づきにくい場所で救助や捜索を担うフィジカルAIの活用を目指す。国防分野では、物流・補給、偵察、大量破壊兵器や危険物の探知・除去など、危険任務を代替する技術を実証する。
介護分野では、人と物理的に相互作用しながら介護業務を直接担う、あるいは補助するロボットを開発する。農業では、ロボットやドローンを活用し、露地栽培の無人・自律化プロジェクトを推進する。
モビリティ分野では、自動運転車、ドローン、都市航空交通(UAM)、移動ロボットの商用化を支援する。製造分野では、中小企業向けにロボットを活用した知能型工場モデルを構築し、業種、地域、工程、サプライチェーン単位で横展開していく計画だ。
同部によると、2025年には全羅北道と慶尚南道で、フィジカルAIフルスタック基盤による先端工場構築の可能性を確認した。先月発足した「フィジカルAIアライアンス」第2期などを通じ、モデルやソリューションにとどまらず、通信網、システム統合、データセンター、セキュリティ、運用まで含めたフルスタックの国産化を進める構想だ。主力産業の生産性を20%以上引き上げる方針も示した。
2028年には、フィジカルAI技術を輸出するグローバル先導国へと飛躍することを目指す。イ・ドギュ同部情報通信政策室長は「技術力を最大限に発揮し、研究開発と政府政策を通じてフィジカルAI分野で世界トップを達成することが目標だ」と述べた。
◆GPU・ファンド・人材育成を支援、標準・認証体制も整備
フィジカルAI産業のエコシステムを支える法制度、投資、人材育成も進める。技術開発から実証、商用化、産業育成までを包括的に支援する法的基盤を整え、フィジカルAIの学習やシミュレーションに必要なGPU(グラフィックス処理装置)を重点的に支援する方針だ。
国民成長ファンド、同部の政策ファンド、母胎ファンドを活用し、スタートアップや企業のフィジカルAI転換プロジェクト、長期かつ挑戦的な研究開発への投資も拡大する。人材育成では、短期教育や職務転換を通じた実務人材から、フィジカルAIモデルを開発できる博士級の高度人材まで、段階的に育成する。
技術の安全性と信頼性を評価する国際標準や試験・認証体制も整備する。ロボットとフィジカルAIの性能を客観的に比較できるベンチマークを開発し、危険状況に対応する安全技術と制度基盤を構築する。
ペ・ギョンフン副首相兼科学技術情報通信部長官は「グローバル先導国の技術力に依存せず、独自の技術力を確保することが重要だ」と強調した。そのうえで「国産技術ベースのフィジカルAIフルスタックを整備し、国内での実証を経て世界に輸出できるよう積極的に支援する」と述べた。