AIデータセンターの急拡大を受け、メモリとストレージの需給逼迫が深刻さを増している。Appleが部材高騰を背景に一部製品の値上げに踏み切る中、Teslaのイーロン・マスク氏も、メモリ不足はAI産業全体の大きな制約要因になっていると警鐘を鳴らした。
CleanTechnicaやBusiness Insiderなどが6月28日(現地時間)に報じたところによると、Appleのティム・クックCEOは、AIデータセンター向け投資の拡大でメモリとストレージ価格が急騰し、一部製品の値上げを余儀なくされたと明らかにした。
AppleはiPadとMacを含む一部製品で価格を引き上げた。MacBook、iMac、HomePod、Apple TVなどでも値上げを実施し、一部モデルでは最大300ドル(約4万5000円)上昇したという。
同社は、AIデータセンターが前例のないペースで増設される中、メモリとストレージの需要が急増し、関連部材の価格も短期間で大幅に上昇したと説明した。これまではコスト増を自社で吸収してきたが、すでに限界に達したとしている。
こうしたクック氏の見方に対し、マスク氏もX(旧Twitter)で賛同を示した。クック氏がメモリ不足を「100年に一度の洪水」になぞらえた投稿を共有したうえで、「私が見てきたどの品目よりも大きな価格急騰だ」とコメントした。
さらにマスク氏は、「需要に対して生産がまったく追いついていない」「はるかに大きな生産能力が必要だ」と指摘した。供給が増えなければ、足元の価格混乱は収まりにくいとの見方を示した格好だ。
今回の需給不安の背景には、AIデータセンター投資を巡る競争がある。生成AIサービスの拡大に伴い、ハイパースケーラーなど大手テック企業が大規模データセンターの建設を加速。メモリの生産能力の相当部分が、AI向けサーバーに振り向けられている。
その結果、民生機器向けに回る供給は細り、価格は急速に上昇している。
影響はAppleにとどまらない。Microsoftも、Xboxのゲーム機価格を8月1日から最大150ドル(約2万2500円)引き上げると発表した。メモリ価格の上昇が個別部材の域を超え、民生機器全般の値上げに波及する構図が鮮明になっている。
マスク氏は以前から、メモリ不足をTeslaのAI事業拡大における最大の制約要因の一つとして挙げていた。1月のTesla決算説明会のコンファレンスコールでは、「メモリはAIロジックよりも大きなボトルネックだ」と述べ、チップ供給企業の生産能力が今後のAI開発速度を左右しかねないとの認識を示していた。
対応策としてTeslaは、SpaceX、Intelとともに、ロジック半導体、メモリ、先端パッケージングを一体で生産する数十億ドル規模の「Terafab」プロジェクトも進めている。AIインフラを巡る競争が、半導体サプライチェーン確保競争へ発展しているとの判断があるためだ。
課題は、AIインフラの拡大による影響がメモリ価格の上昇だけにとどまらない点にある。超大型データセンターは膨大な電力と冷却設備を必要とし、地域社会の負担につながる可能性がある。
CleanTechnicaは、米ユタ州北部で進む大規模データセンター計画をその例として取り上げた。完成すれば、ユタ州全体の現在の電力使用量のおよそ2倍に相当する電力を消費する可能性があるという。
ユタ州立大学の物理学教授ロバート・デービス氏は、この施設が地域の生態系に影響を及ぼす規模のヒートアイランド現象を引き起こしかねないと警告した。計画規模はワシントンD.C.に近い面積まで拡大する可能性があり、周辺の夜間気温を最大で華氏28度押し上げる恐れがあるとしている。
業界では、AIデータセンター投資が今後も拡大するとみられる中、メモリとストレージの供給が需要増に追いつかなければ、民生機器の値上げや電力負荷の増大が当面続く可能性が高いとの見方が出ている。AI開発競争は、半導体供給網から民生機器価格、エネルギーインフラにまで影響を及ぼす局面に入っている。