中国AI企業の攻勢を背景に、世界のAI市場で勢力図の変化が進んでいる。米政府がOpenAIやAnthropicの最新高性能モデルの公開先や輸出を制限する一方、中国勢は低価格のオープンソースモデルを前面に押し出し、世界市場でシェアを急速に広げている。
中国勢の一部モデルは、サイバーセキュリティ分野の特定シナリオでAnthropicの最上位モデル「Mythos」に匹敵する性能を示すとの見方も出ている。一方で、オープンソースAIの高度化がサイバー攻撃の敷居を下げるとの懸念もあり、安全保障やセキュリティの観点から警戒も強まっている。
米国では、Anthropicの「Mythos5」と「Fable5」を巡る輸出規制を一部緩和する動きが伝わっている。トランプ政権が、AnthropicのFable5モデルに対するアクセス制限を早ければ1週間以内に解除する可能性があるとの報道もあった。ただ、国家レベルの輸出管理の基調そのものは当面続くとの見方が大勢だ。
こうした中、日本のAIスタートアップSakanaAIは、複数のAIモデルを単一のAPIで束ねて複雑な作業を処理するAIシステム「Fugu」を投入した。SakanaAIによると、「Fugu Ultra」はコアエンジニアリング、科学、推論のベンチマークでAnthropicの「Fable5」や「Mythos Preview」と同等の性能を示し、一部項目ではFable5を上回ったという。
主要AI企業による製品投入や機能拡充も相次いでいる。OpenAIはBroadcomと協力し、AI推論サーバー向けチップ「Jalapeno」を共同開発した。NVIDIA製チップへの依存を下げ、自社ハードウェアを確保する戦略の一環とみられる。
Anthropicは、Slack上で常時稼働するAIチームメンバー「Claude Tag」をリサーチプレビューとして公開した。Slackチャンネルで「@Claude」を付けて呼び出し、インサイトの取得や業務の割り当てに使えるとしている。さらに、デスクトップ中心のエージェント機能「Claude Cowork」のモバイル対応も準備している。
Googleは、AIコーディング分野でAnthropicを追うため、最近立ち上げたストライクチームを再編している。ミッドトレーニングチームがコーディングを含むモデル能力の強化を担い、事後学習チームはユーザー体験に集中する体制に改め、改善スピードを高める狙いだ。
Salesforceは、顧客サービス向けAIエージェント「Help Agent」を投入した。あわせて、問題解決時のみ課金する新たな料金体系も導入した。
Microsoftは、Excel Copilotに金融専門家向けの3機能を追加した。スキル、プラン、外部データ連携の機能を拡充する。Notionはメール製品「Notion Mail」を9月22日に終了する。AIエージェントサービスへの集中が狙いだ。AIコーディングツールのCursorは、オープンソースのコーディングアシスタント「Continue」を買収した。
Amazon Web Services(AWS)は、大規模コードリポジトリの技術的負債を分析・解消する「AWS Transform」に、新機能「continuous modernization(継続的モダナイゼーション)」をプレビューとして追加した。NVIDIAは、ヒューマノイドロボットを人と同じ環境に配置することを想定した安全システム「NVIDIA Halo for Robotics」を公開した。エンタープライズAIプラットフォームのDataikuは、AIプロジェクト自動生成ツール「Cobuild」を発表した。
資金調達の動きも続く。AIエージェント向け検索インフラを手掛けるSeltzは、1250万ドル(約19億円)のシード資金を調達した。調達資金は、AIエージェントがウェブ上の情報を探せるよう支援する検索インフラの拡張に充てる。AIエージェント向けメモリーを開発するAristoは、Kakao Venturesからプレシード投資を受けた。
このほか、KT CloudはKakaoとAI Safety分野で協力体制を構築する。LG CNSは、SAP ERP向けの実取引データ基盤を活用したERPテスト自動化ソリューション「PerfectWin ERP Edition」を投入した。SK Telecomは、自社開発のAIファウンデーションモデルを製造現場に本格適用する。OpenSurveyは、コンシューマーインテリジェンスプラットフォーム「Dataspace」をAIエージェント基盤へ改編し、調査企画からレポート作成までを支援する。NC AIは、3D生成AIサービス「VARCO 3D」の次世代モデル開発を完了し、7月に自社SaaSプラットフォームへ適用する予定だ。
Madras Checkのイ・ハクジュン代表は、イベント「AX Festa 2026」で「人だけで構成された協業プラットフォームの時代は終わった」と述べ、自社の協業ツール「Flow」をAIワークエージェントプラットフォームへ転換する方針を示した。
企業のAI活用が広がる一方、コスト負担は重くなっている。このため、AI利用ではコストパフォーマンスを重視する動きが強まっており、OpenAIやAnthropicの高性能モデルだけでなく、低価格モデルを用途別に組み合わせて使う企業が増えている。
こうした需要を背景に、タスクの複雑さに応じてより安価なモデルを自動選択するルーターソフトウェアにも注目が集まる。コスト削減を目的に、オープンソースモデルを取り込み、自社向けにカスタマイズして運用する企業も増えている。