ドナルド・トランプ米大統領は24日、米政府による中央銀行デジタル通貨(CBDC)の発行を2030年末まで禁じる条項を盛り込んだ超党派の住宅法案への署名を見送った。選挙関連法案の成立を優先する考えを示しており、法案処理に加え、いわゆる「デジタルドル」を巡る議論の先行きも不透明になっている。
米ブロックチェーンメディアのDecryptによると、対象となったのは「21世紀住宅供給拡大法」(21st Century ROAD to Housing Act)。全米で新規住宅の供給を増やすため建設規制を緩和するほか、ウォール街の大口投資家による住宅買い占めを抑制する内容を含む。
法案には、連邦準備制度理事会(FRB)によるCBDC発行を禁じる条項も盛り込まれている。禁止期限は2030年末までだ。
同法案は当初、24日に署名される見通しで、トランプ氏は連邦議会議事堂で署名式を開く予定だった。だが、式典の数時間前に方針を転換した。
トランプ氏はこの法案について「それほど重要ではない」と述べ、自らが数カ月にわたって支持してきた「SAVE America Act(セーブ・アメリカ法)」を先に処理すべきだと主張した。選挙関連法案の成立を署名の条件とする考えを示した格好だ。
一方、共和党指導部は、セーブ法案が実際に可決される可能性は極めて低いと繰り返し指摘してきた。このため、トランプ氏の条件提示は、住宅法案の署名を事実上棚上げする要因になったとの見方が出ている。
もっとも、住宅法案に対する議会の支持は厚い。上院は23日に85対5で可決し、下院もその後、358対32で可決した。
いずれの採決結果も、大統領が拒否権を行使した後の再可決に必要な3分の2を既に上回っている。ただ、トランプ氏が実際に拒否権を発動した場合にも、同じ構図が維持されるかどうかは見通せない。
暗号資産業界やプライバシー擁護派が注目してきたのは、このCBDC禁止条項だ。米政府が裏付けるデジタル資産としての「デジタルドル」の導入を、一時的に止める仕組みと位置付けられているためだ。
欧州連合(EU)などの主要地域がCBDC発行計画を進める一方、米国の保守派は、米国版CBDCが政府による個人の取引データ把握につながりかねないとして反発してきた。
今回の署名見送りによって、米国のCBDCを巡る議論は再び政治争点として浮上した。法案自体は住宅供給の拡大と、ウォール街による住宅買い占めの抑制という重要な内容を含んでいたが、トランプ氏は土壇場で優先順位を引き下げた形だ。
報道によると、会場設営はすでに完了し、発表直前まで側近らがオンラインで法案の効果を訴えていたという。
今後の焦点は、トランプ氏が実際に拒否権を行使するのか、また議会が超党派の支持を改めてまとめ、再可決に持ち込めるかの2点にある。
とりわけCBDC禁止条項は住宅法案に組み込まれているため、法案処理の遅れが長引けば長引くほど、米国のデジタルドルを巡る議論にも不確実性が広がりそうだ。