テキスト生成を担う大規模言語モデル(LLM)とは別に、確率に基づいて判断を返す「意思決定AIモデル」の開発競争が急速に広がってきた。9月にTypesafeAIが「jev」を公開したのをきっかけに、OpenAI、Amazon Web Services(AWS)、Cloudflareなども相次いで類似モデルを打ち出している。
TypesafeAIは、OpenAI出身のディオゴ・アルメイダ氏が設立したスタートアップ。9月に公開したjevは、複雑な状況設定や限定的な問い、あらかじめ用意された回答候補を入力すると、文章ではなく選択結果とその確率を返す。AIエージェント向けに適したモデルとして位置付けている。
同社によれば、AIエージェントに必要なのは、緊急かどうか、継続か停止か、許可か遮断かといった個別の判断だ。従来のLLMはまず文章を生成し、それを最終的な決定に落とし込む必要があるが、エージェント内部で繰り返される処理の多くでは文章生成そのものが不要だという。TypesafeAIは、こうした点を踏まえ、jevをLLMの限界を補う代替的な手法として訴求している。
業界関係者によると、jevの公開後、AIコミュニティでは大きな関心が集まった。大手テック企業が似た構造のモデルを相次ぎ投入している背景にも、こうした反応があるとみられる。
OpenAIは9月末の年次開発者イベントで、あらかじめ定めた選択肢の中から高速に判断する「Decisions API」の限定提供を始めた。jevに近い発想の製品とみられている。
サム・アルトマンOpenAI CEOは、Decisions APIについて、OpenAIの「Luna」モデルに事前定義した選択肢を与え、その中から1つを選ばせる仕組みだと説明した。画像分類のラベル選択や、複数のエージェント行動から1つを選ぶ用途などを想定している。
アルトマン氏は、「モデルが選べる範囲を絞れば、非常に高速にしながらも、画像理解や幅広い言語対応、安全機能を維持できる」と述べた。
AWSも、エージェンティックAIの開発を見据え、軽量な意思決定モデル「Strands Decider 2B」をオープンソースとして公開した。TypesafeAIはjevの構造を公開していない。
Strands Decider 2Bも、テキストを生成せず、事前に定めた選択肢から1つを選ぶ方式で動作する。トークン消費と応答遅延の削減を狙った設計で、基本的な発想はjevに近い。
Cloudflareも、jevを上回る性能と速度をうたう意思決定AIモデル「Clef」を投入した。
The Registerの報道によると、Clefはベースモデルの「Clef」と、より小型で高速な「Clef Flash」の2種類を用意する。いずれもjevと同様に、はい/いいえ、選択式、順位付けという、回答形式が定型化された3種類の問いに対応する。
Cloudflareは、オープンソースLLMのQwenを意思決定用途向けに追加学習させ、Clefを開発した。ClefにはQwen3.8-27B、Clef FlashにはQwen3.5-9Bを採用した。
Clefはテキストに加え、画像や動画の分類にも対応する。処理可能なコンテキスト長は最大6万4000トークンとしている。
CloudflareのAIモデル推論プラットフォーム「Workers AI」では、Clefを利用できる。価格は100万トークン当たり0.24ドルで、jevの0.042ドルを大きく上回る。
コスト負担を抑えたい場合は、Hugging Faceからモデルをダウンロードして自前で実行することも可能だ。ライセンスはQwenと同じApache 2.0。CloudflareのAIプラットフォームグループでプロダクトマネージャーを務めるミシェル・チェン氏は、学習データセットは公開していないと述べた。