Ethereum(写真=Shutterstock)

Ethereumの発行政策見直しを盛り込む提案「EIP-8363」が、次期ネットワークアップグレード「Hegota」の候補から除外された。発行政策に関わる重要論点は、通常のアップグレード作業とは切り分け、別の手続きで議論すべきだとの見方が強まったためだ。

ブロックチェーンメディアのCoinPostが2日に報じたところによると、Ethereum France代表のジェローム・ド・ティシェ氏は1日、X(旧Twitter)への投稿で、EIP-8363をHegotaの検討対象から取り下げると明らかにした。

今回の判断の背景には、Hegotaに盛り込む提案を選定する過程で、発行政策の変更を通常のフォーク関連作業と一体で扱うべきかどうかを巡って意見が分かれたことがある。候補選定プロセスであるCFI(候補機能の検討枠組み)では、業界関係者やコア開発者から、ETHの発行量に関わるような重大な通貨政策は別の手続きを経るべきだとの指摘が出ていた。

ド・ティシェ氏もこうした問題提起に同意し、今後はEthereumの発行政策に関する議題を、専用の別プロセスで扱う方針を示した。

EIP-8363は、Ethereum Foundationのジャスティン・ドレイク氏らが8月4日に提案したものだ。ステーキングされたETHが増えるほど、ステーキング報酬のうち焼却に回す割合を高める仕組みを柱としている。

提案では、ステーキングされたETHが総供給量の約半分に当たる6025万ETHに達した場合、焼却率が100%になる設計としていた。導入は一括ではなく、約18カ月かけて段階的に進める案だった。

この提案を巡っては議論が過熱した。開発者向けフォーラム「Ethereum Magicians」には200件超のコメントが寄せられ、ド・ティシェ氏は、同フォーラムでも特に議論が活発な提案の一つだと説明している。

主な争点は、ステーキング比率の上昇がEthereumネットワークとETHの経済構造にどのような影響を及ぼすかだ。ド・ティシェ氏は、今回の取り下げとは別に、ステーキング比率の上昇がネットワークの安全性や中立性、ETHの通貨としての役割に与え得る懸念はなお残ると指摘。そのうえで、関連論点をセキュリティ、バリデーター構成、ソロステーカーへの影響など5項目に整理し直したと述べた。

市場参加者の見方も割れた。ETH保有企業Sharplinkのジョセフ・チャロム最高経営責任者(CEO)は8月、EIP-8363が分散型金融(DeFi)を損なう可能性があるとして反対姿勢を示した。Aave創業者のスタニ・クレチョフ氏も当時、この提案はEthereumに悪影響を及ぼしかねないとの見方を示していた。

今回の取り下げ表明を受け、クレチョフ氏はド・ティシェ氏の投稿を引用し、支持する姿勢を示した。発行政策を別手続きに切り分けて議論する方向性を評価した形だ。

EIP-8363が実際に導入された場合、ステーキング経済にも変化が及ぶとみられていた。8月時点では、ETH総供給量の約34%がステーキングされていると集計されており、提案が実施されれば年間のステーキング利回りは約2.6%から1.2%程度まで低下すると予想されていた。

ステーキング報酬の減少は、バリデーターの参加インセンティブやネットワーク運営の構造に直接影響し得る。この点も、賛否が分かれた要因の一つとなった。

一方で、Ethereum開発者は「Glamsterdam」の次段階に当たるHegotaの詳細仕様を詰めている。ヴィタリック・ブテリン氏は最近のブログで、Hegotaが2015年当時の技術的前提を維持する最後の従来型フォークになる可能性に言及した。

今回のEIP-8363除外により、Ethereumではネットワークアップグレードと通貨政策の議論を切り分ける流れがより鮮明になった。今後は、ETHの発行量やステーキング報酬といった通貨政策に関わる論点が、別の手続きで議論される可能性が高い。

もっとも、EIP-8363そのものが廃案になったわけではない。今回の決定は、あくまでHegotaに含めないという判断であり、発行政策見直しを巡る議論は今後も別のガバナンスプロセスで続く見通しだ。

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