トロン創業者のジャスティン・サンが2025年8月にBlue Originの有人飛行へ搭乗したことを機に、宇宙観光の実勢価格や、実際に利用できるサービスの実態に改めて関心が集まっている。宇宙観光は数千ドル台の無重力体験から、数千万ドル規模の国際宇宙ステーション(ISS)滞在まで幅広い。一方で、価格表や販売ページがあっても、すでに定期運航しているとは限らない。
ブロックチェーン系メディアのCryptopolitanが9月30日付で報じたところによると、商業宇宙観光市場は大きく、無重力体験フライト、成層圏バルーン、準軌道飛行、ISS滞在を伴う軌道飛行の4分野に分かれる。価格帯は数千ドルから5500万ドルまで開きがある。
まず見極めるべきなのは、「販売中のサービス」と「実際に有料乗客を乗せて飛行した実績があるサービス」は別だという点だ。チケット価格を公表していても、まだ乗客を宇宙へ送れていないケースや、開発の遅れで運航時期が見通せないケースがある。
比較的手ごろな選択肢の1つが、米Zero-Gの放物線飛行だ。大気圏外には出ないが、航空機が放物線飛行を繰り返すことで短時間の無重力状態を体験できる。1回のフライトで12〜15回の放物線飛行を行い、合計5〜8分程度の無重力時間を提供する。
座席価格は足元で約6700〜8850ドルとされる。ただし、現在は整備上の問題で運航を停止している。
成層圏バルーン型の観光サービスも、商用化には至っていない。Space Perspectiveは1席12万5000ドルとしているが、これまで有料乗客を乗せた飛行は実施していない。
同社は2024年9月の無人試験飛行で高度約10万フィートに到達した。その後、事業面で支障が生じ、2025年初めにフロリダ州の施設を退去。2025年半ばにはスペイン系企業Eos X Spaceに買収された。現時点ではなお開発段階にある。
準軌道飛行では、Blue OriginとVirgin Galacticが代表的な事業者として挙がる。両社とも乗客を宇宙空間の境界付近まで送った実績はあるが、現時点では定常的な有人運航を中断している。
Blue Originの「New Shepard」は、これまで38回の飛行で98人をカーマンライン超えの高度へ送り出した。搭乗者にはジェフ・ベゾス、ウィリアム・シャトナー、オリバー・デイモン、ケイティ・ペリーらが含まれる。
ただ、Blue Originは2026年1月30日からNew Shepardの運航を少なくとも2年間停止し、月着陸船「Blue Moon」の開発に注力すると明らかにしている。このため、現状では一般利用者が購入後すぐ搭乗できるサービスとは言いにくい。
ジャスティン・サンのケースも、通常のチケット購入とは異なる。サンは2021年、Blue Origin初の有人飛行の座席オークションで2800万ドルを提示して落札したが、日程の都合で搭乗を延期。その後、2025年8月3日のNS-34ミッションで実際に飛行した。
この2800万ドルは一般向けの標準価格ではない。Blue Originの慈善団体「Club for the Future」への寄付的な性格を持つ一回限りの金額とされる。現在も一般乗客向けの公式価格は公表されていない。
Virgin Galacticは、有料乗客を乗せた実績を持つ。2023〜2024年に6回の有料乗客フライトを実施し、高度約86kmまで到達した。ただし、国際的に広く参照される宇宙の境界である100kmには達していない。
同社は2026年4月に宇宙飛行チケットの販売を再開し、1席75万ドルとしている。待機リストには675人超が残っているという。
もっとも、既存機のVSS Unityは2024年に退役した。次世代のデルタ級宇宙船についても、初飛行目標は当初の2026年第4四半期から2027年2月へ後ろ倒しとなった。これもあくまで同社が示した目標であり、商用運航の日程が確定したわけではない。
実際に宇宙へ滞在する軌道飛行になると、費用は一段と跳ね上がる。ISS滞在型の民間宇宙飛行ではAxiom Spaceが代表的な事業者だ。Axiomは2022年の初回ミッション「Ax-1」から2025年の「Ax-4」まで、4回のISS民間ミッションを実施した。
1席当たりの費用は約5500万ドルとされる。準軌道飛行が宇宙空間の境界付近まで上昇して帰還するのに対し、ISSに滞在する軌道飛行は必要なコストが大きく異なる。
NASAはAxiomの次回民間ミッション「Ax-5」も承認しており、打ち上げ目標は2027年1月以降としている。さらにNASAは、2026年2月にVastへ民間宇宙飛行ミッションを任せており、ISSを活用した商業宇宙飛行市場が他社へ広がる可能性も示している。
SpaceXも、民間人を対象とした有人宇宙飛行の実績を持つ。「Inspiration4」や「Polaris Dawn」が代表例だ。ただし、これらは一般消費者向けに定額の座席を販売する方式ではなく、個別の民間プロジェクトとして進められた。
宇宙関連サービスの中では、追悼目的の宇宙飛行も特殊な分野として存在する。Celestisは1997年以降、24回の追悼飛行を実施した。遺骨の全量ではなく、一部の遺灰やDNAサンプルをカプセルに収め、打ち上げ機に搭載する仕組みだ。
価格は、準軌道の往復型が3495ドルから、地球軌道型が4995ドルからとされる。人を直接宇宙へ送る観光とは性格が異なるものの、打ち上げ実績を積み上げた商業宇宙サービスの一角を占めている。
安全性も宇宙観光市場の大きな課題だ。Virgin Galacticは2014年の試験飛行中の事故で、副操縦士マイケル・アルスベリーを失った。Blue Originでも2022年の無人貨物ミッション「NS-23」で打ち上げ直後にブースター異常が発生したが、緊急脱出システムが作動し、搭載物はパラシュートで回収された。人的被害はなかった。
各社は搭乗前に医療評価などを求めているが、商業航空のように大規模運航を前提とした安全統計が十分に蓄積されている段階ではない。飛行回数や乗客数がなお限られる以上、宇宙観光を選ぶ際には価格だけでなく、運航実績と安全性も重要な判断材料になる。
現在の宇宙観光市場では、「いくらで乗れるか」と同じくらい、「今、実際に乗れるのか」の確認が重要になっている。数千ドル台の無重力体験から数千万ドル規模のISS滞在まで選択肢は広がったが、なお開発段階にあるサービスや、運航を中断しているサービスも少なくない。
派手な価格表や予約ページが、そのまま近い将来の実飛行を意味するわけではない。ジャスティン・サンの例のように、実際の搭乗まで長い時間を要することもある。今後の宇宙観光市場では、価格競争だけでなく、定期運航の実現性、安全性、そして実際の有人飛行実績を巡る競争が一段と重みを増しそうだ。