Qualcommは、Snapdragon全製品群でエージェンティックAIを本格展開する方針を打ち出した。9月22〜24日に米ハワイ州マウイで開いた「Snapdragon Summit 2026」で、2nmプロセスのフラッグシップ向けモバイルSoC 2製品に加え、PC、オーディオ、ウェアラブル向け製品を順次公開。AI時代におけるスマートフォンの役割、エージェント成立の条件、パーソナライズの起点という3つの論点について、自社の考え方を示した。
同社は、スマートフォンをエージェンティックAI時代でも最も多くのユーザー情報が集まる中核デバイスと位置付ける。一方で、エージェントはチップ性能だけでは成立せず、記憶、判断、行動を担うパートナーソフトウェアとの組み合わせが不可欠だとする。さらにパーソナライズは、ウォッチ、イヤーバッド、メガネといったウェアラブルデバイスがコンテキストを収集するところから始まるとの見方を示した。これに合わせ、同社はモバイルSoC、パートナー企業によるエージェント基盤、ウェアラブル向け製品を披露した。
◆AI時代でもスマートフォンが中核
Qualcommの答えは明確だ。スマートフォンはAI時代でも中心に残る。CEOのクリスティアーノ・アモン氏は22日の基調講演で、「携帯電話はなくならない」と述べ、アプリやアシスタントからエージェントへと移行する変化の中心にスマートフォンがあると強調した。
上級副社長兼モバイルハンドセット本部長のクリス・パトリック氏は、その理由として、終日ユーザーとともにある「常時性」、日常や周囲の状況を把握する「コンテキスト」、他デバイス、アプリ、クラウドをつなぐ「接続性」を挙げた。エージェントがユーザーに代わって機能するには、最も多くのユーザー情報が集まるデバイスが必要で、現時点ではそれがスマートフォンだという考えだ。
その中核を担う製品として投入するのが、「Snapdragon 8 Elite Extreme(第6世代)」と「Snapdragon 8 Elite(第6世代)」だ。両製品は同じ2nmプロセスで製造し、メーカーがモデルのグレードに応じて選択できるマルチフラッグシップ戦略で展開する。パトリック氏は「単一の仕様ではもはやフラッグシップを定義できない」と述べ、ベースモデルからウルトラ、フリップ、フォールドまで細分化が進むプレミアム市場に対応したものだと説明した。
演算性能は、エージェントが必要とするモデル規模を前提に設計した。パトリック氏は「AIエージェントが高機能になるほど、より強い推論能力と豊富なコンテキストを持つ大規模モデルへのアクセスが必要になる」と述べた。Qualcommによると、Extreme(第6世代)はHexagon NPUの共有メモリを拡張し、300億パラメータ規模のMixture of Experts(MoE)モデルをスマートフォン上で動作させる。トークン生成時に有効化されるのは全体のうち約30億パラメータのみという。
GPUにはAI専用のAdreno Matrix Coreを搭載した。行列演算のアクセラレーションを、NPUやCPUに加えてGPUにも拡大した格好だ。
◆エージェント成立の鍵はパートナー基盤
Qualcommは、チップの性能向上だけでエージェントが完成するとはみていない。製品管理担当副社長のビネシュ・スクマール氏は24日の「Elite Experience」セッションで、「能力だけではパーソナライズは生まれない。パーソナライズにはコンテキストが必要だ」と語った。同社が目指すのは、ユーザーを記憶し、理解し、代わりに行動するデジタルツインだ。
アモン氏は、ユーザーがエージェントを使うかどうかを判断する基準として、信頼性と利便性を挙げた。セキュリティとコントロールをユーザー側が握れること、そしてエージェントに任せた方が自分で操作するより簡単であることが条件だとした。
会場では、人とエージェントをつなぐデジタルツインの姿を、Qualcommのパートナー企業によるサービスとして紹介した。記憶はMemoriesAI、判断はLiquidAI、行動はAGIが担う構成でデモを実施。スマートグラスとノートPCが記録した日常の情報をスマートフォンが索引化し、レンタカーの駐車位置を答える場面や、ウォッチが検知した歩行の変化と通話中に言及した膝の痛みを結び付け、翌日の運動予定の見直しを先回りして提案する場面、朝の会話で話題に上がった飲食店を探してグループチャットに送る場面などを示した。
同社は、モデル、メモリ、開発ツール、オーケストレーション、ガバナンスを含む全体で数十社のパートナーと連携し、オンデバイスのエージェンティックAIスタックを構築していると明らかにした。
ソフトウェア層の整備も進める。Qualcommは、買収したModularのMojo・MaxスタックをSnapdragonの全ポートフォリオへ拡大している。Googleは、ローカルモデルとクラウド処理を組み合わせて設計したGemini Intelligenceを、スマートフォンに続いてGoogleのノートPCにも適用した。
PC分野では、Snapdragon X2 Plus搭載のMicrosoft Surfaceを10月13日に発売する。Snapdragon X2シリーズのLinux対応は、Debian対応を年内に開始する。
◆パーソナライズの起点はウェアラブル
Qualcommは、エージェントの最終到達点を完全なパーソナライズとみる。その起点に置くのが、身体に装着するウェアラブルデバイスだ。XR、ウェアラブル、パーソナルAI部門を率いる上級副社長のジアド・アスガル氏は、「スマートフォンはエージェンティックな体験のハブとして残るが、パーソナライズされたAIには身体に装着するデバイスが必要だ」と語った。
ウォッチは活動量や心拍を、イヤーバッドは追加の健康シグナルを、メガネは映像情報を収集する。これらのいずれかのデバイスが入力情報を統合し、AIを実行するデバイスへ受け渡す構成を想定しているという。
製品展開はフォームファクター別に進める。パーソナルAI向けに設計した初のプレミアムオーディオ製品「Snapdragon Sound Elite(第2世代)」では、マイクロパワーWi-Fiにより、イヤーバッドからスマートフォンを介さずクラウド上のエージェントへ接続できるようにした。
AIメガネ向けのSnapdragon AR1シリーズは、メモリ使用量を抑えられる1ビットのマルチモーダルモデルをサポートする。Qualcommによると、従来DRAM 1GBを使っていたモデルを125MBまで縮小できるという。デバイス間でのコンテキスト共有は、OSに依存しない下位ソフトウェア層で実現する方針だ。アスガル氏は、このマルチデバイス体験について「事実上の業界標準になる必要がある」と述べた。
ウェアラブルの用途は業務現場にも広げる。QualcommはメガネメーカーのInspexと共同で、カメラとAIを搭載した産業用保護メガネを公開した。作業者がレンチを手放さずに点検写真を撮影し、遠隔地の専門家から案内を受ける利用を想定している。
こうした3つの論点は、製品投入スケジュールにもつながる。2つのフラッグシップ向けモバイルSoCは、主要グローバルOEMおよびスマートフォンブランドのフラッグシップモデルに採用される予定だ。GoogleがQualcommと共同開発するSnapdragon AR1搭載のAIメガネは年内に発売する。Qualcommは医療分野のパーソナルAIヘルスアライアンスについて、臨床試験と適用事例も近く公表する方針だ。スクマール氏は「エージェンティックAIは初期段階ですでに反響を得ており、今年本格的に定着すると期待している」と述べた。