ジェシー・ジャン氏(Decagon CEO)。写真=本人のXアカウントより

Metaの「Muse」などパーソナルAIエージェントの普及を受け、企業の顧客体験の設計を見直す必要があるとの指摘が出ている。AIカスタマーサービスを手がける米Decagonのジェシー・ジャンCEOはX(旧Twitter)への投稿で、本人確認や権限管理、例外対応、不正対策まで含め、BtoC企業のUXは再設計を迫られるとの見方を示した。

ジャンCEOは、パーソナルAIアシスタントの台頭によって、企業の顧客接点が大きく変わると指摘した。投稿では「AmazonはMuseを止めた。一方でShopifyはMuse向けの決済導線を開いた。消費者向け企業は、どちらの側に立つのかを決め、新たなUXを考える必要がある」と述べた。

Amazonのような大規模事業者であれば、購買体験を自社で囲い込み、外部からのアクセスを制限する戦略も取り得るとしたうえで、「最終的にはAmazonも後退する。顧客が求めるのはAIアシスタントとの連携だからだ」との見方も示した。

同氏によると、MuseやInstinctのようなパーソナルエージェントの利用は急増している。エージェントが実際の作業を代行するようになっているためだ。

Metaは、Museがユーザーの資金で商品を直接購入するケースを想定し、1件当たり最大1000ドルの購入保護を提供しているという。

ジャンCEOは、こうした変化について「すべての消費者向け企業は、これまで想定してこなかった新たな顧客層に向き合うことになる。財布を持つロボットだ。オフラインからオンラインへ、さらにモバイルアプリへ移行した時に匹敵する変化になる」と表現した。

そのうえで、エージェント対応は単にAPIを用意し、ドキュメントを整備すれば済む話ではないと強調した。

「顧客がエージェントになるなら、従来のUXはむしろ足かせになる。商品一覧も、購買フローも、画面の奥に隠した解約抑止の値引き特典も、エージェントはすべて飛ばしてしまう。エージェントは画面を見ない。これまで画面上で担保してきたルールは、別の方法で守らなければならない」

同氏は、特に判断を伴う業務の再設計が重要だとして、5つの論点を挙げた。

第1は、本人確認と代理権限の確認だ。エージェントが本当に顧客の代理として行動しているのかを見極め、どこまでの権限を与えるのかを定める必要がある。閲覧と購入は別であり、40ドルの再注文と4000ドルの予約でも扱いは異なる。

第2は、ルールと手続きの整理だ。航空便の変更、カードの再発行、料金プランの見直しといった手続きは、顧客属性や法規制、社内方針によって処理方法が変わる。

第3は、交渉条件の上限設定である。ジャンCEOは「誰に値引きを認め、誰には原則を適用するのかを決められなければ、エージェントは毎回、企業にとって最も不利な条件を引き出す。エージェントは疲れも恥じらいもなく、競合条件とリアルタイムで比較する」と述べた。

第4は、例外対応だ。返金期限を過ぎた依頼でも、6年間利用してきた既存顧客と、前日に加入した顧客とでは、同じ対応にはならないとした。

第5は、自動化された不正への対策である。正規のエージェントが0.2秒で購入できる導線があるなら、悪意あるエージェントは1時間に1万回のペースでポリシーの隙を突いてくる可能性がある。このため、リクエスト回数の制限だけでは防ぎ切れないという。

ジャンCEOが描く最終形は、AI側の顧客と企業側AIが取引する構図だ。人は「最安で買って」と希望を示し、企業は「利益率を守りつつ、優良顧客をつなぎ留める」と方針を与える。実際の取引は機械同士で処理されるという。

同氏は「顧客対応を担う企業AIは、人間だけでなくAIアシスタントにも対応できなければならない。適応できなければ後れを取る」と指摘した。さらに「1回の対話にかかるコストがゼロに近づけば、消費者と企業のやり取りは大きく増える。これまで顕在化していなかった経済的な可能性も立ち上がる」と述べた。

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