ショウジョウバエの神経回路を模したデジタルシミュレーションを使い、ビットコインの売買を試す実験が行われた。Coinbaseのソフトウェアエンジニア、アレックス・ワーマス氏が100ドル(約1万5000円)を元手に運用したところ、実験初日に1ドル(約150円)の利益が出た。ただ、単日の結果だけでは学習能力や自動売買の有効性を示したとはいえない。
ブロックチェーンメディアのU.Todayが9月11日(現地時間)に報じた。ワーマス氏は、ショウジョウバエの脳の配線構造を基にしたシステム「Stonkfly」を立ち上げ、ビットコイン取引の実験を開始。開始から1日後に公表された初期結果では、損益は1ドルのプラスだった。
Stonkflyは、実際のショウジョウバエがビットコインを売買する仕組みではない。成体オスのショウジョウバエの中枢神経系コネクトーム「MaleCNS v1.0」をデジタル環境で再現し、暗号資産の価格データを入力して挙動を見る実験だ。
売買の流れも特徴的だ。StonkflyはCoinbaseのBTC-USDCに関する公開市場データを取り込み、これをRGB画像に変換する。さらに、その画像を昆虫の視覚系に対応する数千の感覚入力として扱い、売買シグナルを生成する。
損益に応じたフィードバックも、ショウジョウバエの神経系を模した構成になっている。ポートフォリオに利益が出ると、PAM11のドーパミンニューロン15個を刺激する。一方、損失が出た場合は、回避反応に関わるPPL101ニューロン2個を活性化するという。
もっとも、1日で得た1ドルの利益をもって学習の成果と判断するのは難しい。U.Todayは「収益性のある学習は実証されていない」と指摘している。相場の動きと偶然の売買判断が重なって利益が出た可能性は否定できず、異なる市場環境でも同様の結果を再現できるか、実際に価格パターンを学習しているかは確認されていない。
今回の実験の土台となったショウジョウバエの神経接続地図は、今月初めに公表された研究成果に関連する。Google Researchと複数の研究機関の科学者は、AIを活用して成体オスのショウジョウバエの脳と中枢神経系の全接続地図を構築した。この地図には約16万6700個のニューロンと、それらの接続構造が含まれている。
ショウジョウバエ神経網のシミュレーションは、ゲーム分野でも応用が進んでいる。ワーマス氏は以前、同じMaleCNSモデルをクラシックゲーム「Doom」に接続した「Doomfly」を公開した。このほか、ショウジョウバエのコネクトームシミュレーションを「Beat Saber」「Super Mario 64」「Minecraft」「Pong」などと連動させる試みも続いているという。
研究チームは、現時点のシミュレーションがショウジョウバエの脳全体をそのまま再現したものではない点も認めている。神経伝達物質や化学的調節、遺伝子発現といった複雑な生物学的プロセスが、完全には反映されていないためだ。
現段階のStonkflyは、ビットコイン自動売買の性能を実証した事例というより、神経科学データと金融市場データを組み合わせた実験とみるのが妥当だ。今後の焦点は、こうしたショウジョウバエ神経網シミュレーションが短期的な偶然の利益を超え、市場パターンを実際に学習して再現性のある運用成績を示せるかどうかにある。
ワーマス氏はXへの投稿で、「ハエの脳に100ドルを渡してビットコインを取引させた。利益が出るとドーパミンニューロンが刺激され、その活動が売買判断を制御し、Coinbaseで取引する。ハエは金持ちになれるのか」と紹介している。