米EVメディアのInsideEVsは9日(現地時間)、中国で25台超の車種を試乗した記者が「実際に買いたい」と感じた中国EVを紹介した。候補として挙がったのは、ZEEKR Mix、BYD Seagull、Xiaomi SU7・YU7、Geely EX5、NIO系のFireflyなど。評価の軸は価格競争力だけではなく、空間設計やソフトウェア、走行性能、内外装の質感にまで及んだ。
同メディアは、中国車が米市場にすぐ大規模参入するのは難しいとしながらも、商品力の面では米消費者が見過ごしているモデルが少なくないと指摘した。
中でも強い印象を残した1台として挙げられたのがZEEKR Mixだ。一般的な電動バンとは一線を画し、室内空間の使い方と上質さを前面に打ち出したモデルと評価された。
特徴としては、3つのスライドドアに加え、ピラーのない開放的な構造、回転シート、テーブル付きの電動センターコンソールなどを備える点が挙げられた。試乗した記者は、車内を「走る高級リビング」のようだと表現。素材の質感についても、AudiやBMWといった伝統的な高級車ブランドを上回る印象を受けたという。
一方で、独特なボディー形状や高価格帯になる可能性から、量販には限界があるとの見方も示した。
低価格EVでは、BYD Seagullに注目が集まった。中国での価格は約8000ドル。小型車ながら、冷暖房機能、応答性の高いインフォテインメント、成人4人が乗れる室内空間を備えるという。
試乗記者は、Seagullが一時期中国市場でベストセラーモデルに入った理由が理解できたと評価した。低価格でありながら、安っぽさや仕上げ品質の低さを感じさせない点を高く買った。
輸出モデルでは中国国内価格より大幅に高くなる可能性があるものの、約2万ドルでも十分に競争力を持ちうるとの見方を示した。
Xiaomi SU7とYU7は、テック企業が既存の自動車メーカーとは異なる形で市場に参入し、競争できることを示す代表例として取り上げられた。Xiaomi初の量産車であるSU7は、発売開始から1時間で5万台超の予約注文を集めたとされる。
電動セダンのSU7と電動クロスオーバーのYU7は、それぞれTesla車やPorsche Taycanを想起させるデザインと性能を前面に出している。試乗記者は、いずれも期待に十分応える仕上がりだったと評価した。
車両制御や走行感覚は中国勢の中でも高水準で、統合アプリを含むソフトウェアや各種機能の作り込みは、一部のTesla車よりも洗練されているように感じられたという。価格面でも、同等の性能を持ちながらTeslaよりやや低い水準に設定されており、価格と技術の両立を重視する消費者に訴求できると分析した。
Geely EX5は、派手さよりも基本性能を重視したモデルと位置付けられた。大衆向けの電動クロスオーバーで、外観に強烈な個性はないものの、広い室内空間、素早く反応するインフォテインメント、安定した走行性能が強みだという。
メキシコ仕様の価格は約4万ドルで、Volkswagen ID.4と同水準。それでも商品としての完成度はEX5の方が高いとの評価を受けた。サーキット走行でも予想以上に扱いやすかった点にも触れている。
最後に紹介されたNIO系の小型プレミアムハッチバックFireflyは、試乗記者が個人的に最も好感を持ったモデルだった。Fiat 500eやMini Cooper SEが競合する市場を想定し、出力や電池容量の過度な競争ではなく、デザイン、使い勝手、運転の楽しさ、乗り心地、インフォテインメントのバランスを重視した設計だという。
記者はFireflyについて、自身のニーズに最も近いEVの1台だと位置付けた。単に速い、あるいは航続距離が長いだけではなく、日常使いに必要な要素をバランス良く備えている点を高く評価した。
InsideEVsが今回の試乗で共通項として挙げたのは、中国EVの競争力がもはや「安く作れること」だけではないという点だ。超小型ハッチバックから高級電動バン、高性能セダン、大衆向けクロスオーバーまで幅広いセグメントで、価格に加えて空間設計、ソフトウェア、走行性能を同時に引き上げているとみる。
Xiaomiのように自動車業界の外から参入したテック企業が、ソフトウェアやエコシステムを武器に既存メーカーと競っている点も注目材料だとした。
もっとも、中国EVの米市場参入にはなお高いハードルがある。関税や技術規制がその代表例だ。一方、メキシコなど他市場では、中国EVの海外展開はすでに広がっているという。
米自動車業界もこうした動向を注視している。Fordの最高経営責任者(CEO)、ジム・ファーリー氏は、今後10年以内に中国の自動車メーカーが米市場に参入する可能性に言及したことがある。
当面、中国EVが米国の道路を大量に走る局面は想定しにくい。ただ、中国メーカーが価格競争力の先にある新たな商品基準を打ち立てつつある点は見逃せない。焦点は「どれだけ安く売れるか」ではなく、「同じ価格でどれだけ多くを提供できるか」に移りつつある。