「iPodの生みの親」として知られるトニー・ファデル氏は7日(現地時間)、初期のAI専用機が市場に定着しなかった要因として、実用性の不足と信頼性の問題を挙げた。AIアシスタントが広く受け入れられるには、まず利用者の課題を解決し、機微情報を安心して任せられるだけの安全性を備える必要があるとの認識を示した。
TechCrunchによると、ファデル氏はMIT Future Festで、Rabbit R1、Humane AI Pin、Limitless Pendantを「第1世代のAI製品」の例として挙げた。そのうえで、こうした製品は利用者が抱える課題を十分に解決できなかったと語った。
ファデル氏は「何を実現したいのか、どんな不便を解消したいのかを本当に理解する必要がある」と指摘した。これらの製品はニーズを満たし切れず、技術感度の高い一部ユーザーにとって興味深い存在にとどまったという。
パーソナル秘書のような利便性をうたった一方で、実際の性能は期待に届かなかった。一般の消費者が日常生活の中でどう使うのかという説明も不十分だったとみている。
ファデル氏は、AIアシスタントという発想自体が、まだ一般には根付いていないとも述べた。「人間の秘書の助けを受けたことがある人は、世界人口の0.01%にも満たない。大半の消費者は、秘書がどういうものかすらよく分かっていない」と話している。
AIエージェントが生活全般を代行する構図が語られているものの、一般ユーザーや企業がそれを受け入れるまでには、なお複数の段階があるとの見方も示した。
鍵を握るのは信頼だ。ファデル氏は「人を秘書として雇っても、初日から銀行口座へのアクセス権を渡すことはない」と説明。機微情報の管理や日程調整、金融関連の業務まで任せられる水準に達するには、時間をかけた信頼の積み上げが必要だと述べた。
そのうえで、AIアシスタントが本当の価値を持つには、万全のセキュリティが前提になると強調した。
こうした問題意識は、最近登場した汎用AIアシスタントにも重なる。Metaが公開した「Muse」では、公開直後にセキュリティ研究者が深刻な脆弱性を見つけたとされる。
Metaでも、リリース前に複数のチームがセキュリティ上の問題への対応に追われたと報じられた。ファデル氏は「どのような知能に仕事を任せるにしても、最も重要なのは信頼と安全だ」と語った。
現時点で、この条件に最も近い企業として同氏が挙げたのはAppleだ。「今すぐ実現できそうな企業はAppleくらいだ」とし、ハードウェア、チップ、必要な構成要素を自前で備えている点を評価した。
一方で、AppleについてもAIそのものの実力は十分ではないと指摘した。新しいSiriのAIは、GoogleのGeminiをベースにしたカスタム版で動いていると言及している。
成功するAIエージェントの形としては、オンデバイス方式を提示した。プライバシー保護と軽量化の観点から、AIは端末内で動作するべきだという立場だ。
データセンター中心のアプローチについては「私はそうは見ていない」と述べ、「今の端末には十分な性能があり、より多くの計算能力も載せられる」と語った。機微情報を継続的にクラウドへ送る仕組みより、端末内にとどめる方が、利用者の信頼を得やすいとの考えを示した。
Appleが競合より優位に立ちやすい理由としては、すでに広く普及した端末エコシステムを挙げた。MetaやOpenAIが端末開発に目を向ける背景については、「Appleのように数十億台規模の端末基盤を持っていないからだ」との見方を示した。
その結果として、スマートフォンで段階的にセンサー利用の許可を得る代わりに、カメラや音声、位置情報の収集機能を自社端末に組み込み、スマートフォンとBluetooth、Wi-Fi、5Gで接続する形が出てきていると説明した。
もっとも、ハードウェア面の競争力がそのまま成功を保証するわけではないともくぎを刺した。製品と市場の適合性について問われると、スタートアップの方が失敗を挽回しにくいと述べた。
ファデル氏は「スタートアップに許される機会は一度きりだ」と指摘する。大企業には、製品投入に失敗しても次の挑戦を続ける余力があるという。AI機器市場でも、性能競争に先立って利用者の課題を明確に定義し、信頼を積み上げる仕組みを備えた企業が生き残るとの見方を示した。