AIの普及を背景に、企業向けソフトウェア各社のUI戦略が二極化している。自社アプリにユーザーを直接呼び込む従来型を維持するのか、それとも外部のAIツールから機能を呼び出せるようにするのか。SalesforceとFigmaの動きは、その対照を象徴している。
業界関係者によると、足元では大きく2つの方向性が浮かび上がっている。1つは、自社ソフトウェアのプラットフォーム上でユーザー体験を完結させるモデル。もう1つは、OpenAIのChatGPTなど外部AIツールからの利用を前提に、機能やデータへのアクセス拡大を優先するモデルだ。
クラウドCRM大手のSalesforceは、後者を代表する企業とみられている。
同社は、AnthropicのClaudeなど外部のAIツールからSalesforceアプリに接続し、機能をそのまま利用できる環境づくりを進めている。米The Informationは、Salesforceが「ブラウザではなくAPIがUIになる」という考え方を鮮明にしていると報じた。
Salesforceは年次カンファレンス「Dreamforce 2026」(現地時間9月15~17日)でも、この方針を裏付ける施策を相次ぎ発表した。新たなAIインターフェース層「AIforce」を投入し、AIエージェント上の作業環境から自社プラットフォームの機能を利用できるようにする。
同社によれば、既存のModel Context Protocol(MCP)は、企業がエージェントをデータソースに接続する段階にとどまる。一方のAIforceは、ユーザーがSalesforceのソフトウェアに直接ログインしなくても、利用中のAIエージェントからデータや機能を使えるようにする点を打ち出している。
外部AIエージェントとの連携拡大にも積極的だ。Dreamforceでは、AWSおよびGoogle Cloudとのデータ・AI分野の協業強化も発表した。
AWSとの協業では、企業向けAIエージェント「Amazon Q」のユーザーがSalesforceのリアルタイムCRMデータにアクセスし、営業や顧客支援チームに代わって自律的に業務を実行できるようになった。Google Cloudとの連携では、Gemini Enterpriseの顧客が追加の接続作業なしにSalesforceのCRMデータや機能を利用できるよう支援する。
こうした、UIを前面に出さずにAIエージェントがソフトウェア内のデータへ直接アクセスする「ヘッドレス」の考え方は、企業向けソフト市場の重要テーマとして浮上している。Salesforceに加え、WorkdayやSAPも一部機能をヘッドレス型で提供している。
もっとも、課題もある。外部AIツールがSalesforce内のデータにアクセスする場合、顧客にどう課金するかが焦点になる。また、顧客がアプリケーションの外部にデータを持ち出す動きが広がれば、サービス提供企業の収益基盤に影響しかねないとThe Informationは伝えた。
英Financial Timesは、ヘッドレス化が企業向けソフトウェアのビジネスモデルそのものを揺さぶる可能性があると指摘する。利用拡大の契機になり得る一方、ユーザー数ベースで課金してきた企業にとってはリスクにもなり得るという見方だ。
FTは、より大きな論点として、ソフトウェアがユーザーに提供してきた価値の相当部分がUIから生まれていた点を挙げた。入力フォームやダッシュボード、分析ツールといった機能は、業務の進め方や管理手法そのものを規定してきた。AIエージェントがUIを介さずデータへ直接アクセスするようになれば、従来の機能の多くは、人間中心のソフトウェアとは異なる新しい形で提供される可能性があるとしている。
さらにFTは、こうした変化によって、いまは不可欠とされるソフトウェアが、将来は単なるバックエンドのデータベースへと位置付けを下げるリスクもあると付け加えた。必要不可欠ではあっても、高い価格を維持できる技術でなくなる恐れがあるという。
これに対し、Salesforceとは逆に、外部AIツール経由の利用拡大よりも、自社ソフトウェアの中でAI活用を深める方向に軸足を置く企業もある。企業向けデザインアプリを手がけるFigmaがその一例だ。
ディラン・フィールドCEOはThe Informationに対し、アプリやUIを設計する自社AIツールの性能が高まるにつれて、Claudeのような著名AIアシスタントを使うよりも、Figma上で直接作業するケースが増えるとの見方を示した。
The Informationは、FigmaがSalesforceとは異なる道を歩む背景には、ビジネス構造の違いもあると伝えている。企業ユーザーの中核データを保管するSalesforceのような業務アプリと異なり、デザインツールであるFigmaは、今後もユーザーが自社のWebサービスに直接アクセスする前提への依存度が相対的に高いという。