写真=Qualcomm。6月に中国・無錫で開いた「2026 Qualcomm自動車技術・協力サミット」

自動車業界で、ADASとコックピットを1チップで処理する高性能SoCの需要が拡大している。機能ごとに分散していた電子制御ユニット(ECU)をドメイン制御機や中央コンピュータに集約する動きが進み、1つのSoCに求められる処理性能が大幅に高まっているためだ。車載半導体市場では、Renesas ElectronicsやNXP Semiconductorsに加え、QualcommやNVIDIA、MediaTekの存在感も強まっている。

業界によると、ADASとコックピットを単一チップで処理する製品は、すでに量産車への搭載が始まっている。6月4〜5日に中国・無錫で開催された「2026 Qualcomm自動車技術・協力サミット」では、70社超の車載サプライヤーが実車デモや試乗を実施した。

Qualcommは同イベントで、AIエージェントやマルチモーダル対話、ADAS高度化に加え、コックピットと運転支援を統合した導入事例を紹介した。「Snapdragon Ride Flex」は量産段階に入っており、採用車種は9モデルとしている。

従来、自動車の演算処理はECUが担ってきた。ECUはマイコンを用いて車両部品を制御する装置で、エンジンやブレーキ、エアコンなどの機能ごとに個別搭載するのが一般的だった。

ただ、運転支援の適用範囲が高速道路から一般道へ広がるにつれ、ECUの処理負荷は急速に増している。車両周辺360度の監視には、カメラやレーダー、ライダーなど最大30個のセンサーを同時に処理する必要があり、機能別に分散したECU構成では対応が難しくなってきた。

こうした中、完成車メーカーが採用を進めているのが、関連機能をまとめて単一のドメイン制御機で処理する方式だ。Teslaや中国の新興完成車メーカーは、大型・高級EVを中心に先行導入している。

矢野経済研究所によると、このような中央集約型アーキテクチャを採用する新車は、2028年に2174万台となり、2024年比で約6倍に増える見通しだ。制御機の数が減るほど、1台の制御機に搭載されるSoCには、複数機能を同時に処理する能力が求められる。

こうした需要拡大を受け、車載チップ市場の競争も激しさを増している。従来はRenesas ElectronicsやNXP Semiconductorsが主導してきたが、いまはQualcommやNVIDIAが攻勢を強めている。

Qualcommは、コックピットとADASを1チップで動かす「Snapdragon Ride Flex」を量産車に搭載した。6月の無錫イベントに登場したArcfox V9では、このチップ1基でメモリー駐車や都市部NOAを支援しながら、メーターやHUD表示も同時に駆動できるという。

アンシュマン・サクセナ氏(Qualcomm、ADAS・ロボティクス統括副社長)は、「汎用SoCを軸にした中央コンピューティングアーキテクチャは、すでに定着した流れだ」と述べた。

一方、NVIDIAは自動運転領域を起点に展開してきた。Thor SoC 2基にカメラ、レーダー、ライダーを組み合わせたリファレンスプラットフォーム「Drive Hyperion」を投入し、完成車メーカーが同一アーキテクチャを複数車種で再利用できるようにしている。

NVIDIAは3月、BYD、Geely、Nissanが同プラットフォームを用いてレベル4(L4)車両を開発していると公表した。Uberとも、2028年までに28都市へロボタクシーを投入する計画を示している。

ジェンスン・フアン氏(NVIDIA、最高経営責任者)は「動くものは最終的にすべて自動運転になる」と述べた。

各社の自動車向け売上も、この流れを反映して拡大している。NVIDIAの2026会計年度の自動車向け売上は前年比39%増で過去最高を更新し、第4四半期も前年同期比6%増だった。同社は、自動運転プラットフォームの採用拡大が寄与したと説明している。

新規参入の動きも出てきた。MediaTekは6月、NVIDIAのGPU技術を組み合わせたコックピットSoC「Dimensity AX C-X1」を、Foxconn傘下のFoxtronのプレミアム車両ソリューション向けに供給する複数年契約を結んだと発表した。

Yole Groupは、ADAS・インフォテインメント向けプロセッサ市場が2029年に164億ドルまで拡大すると予測している。

こうした変化は、制御機を手がけるティア1企業の戦略にも影響を及ぼしている。チップを調達して制御機を製造してきた韓国のティア1各社にとっては、どの半導体メーカーと、どの方式で協業するかが事業の方向性を左右するテーマになっている。

Hyundai MobisはQualcommとの共同開発を選んだ。両社は1月、CES 2026のHyundai Mobisブースで、Ride Flexベースの走行・駐車ソリューションを共同開発する包括協力協定(MOU)を締結した。

役割分担は、Hyundai Mobisがシステム統合とセンサーフュージョン、認知技術を担い、QualcommがSoC技術を担当する形だ。両社は、Hyundai Mobisの標準化ソフトウェアプラットフォームとQualcommの車載技術を組み合わせ、次世代SDV向け統合ソリューションも共同開発する計画としている。

Telechipsは、自社設計路線で対応している。ファブレスとして車載半導体を設計し、車載インフォテインメント(IVI)とADAS向けAP「Dolphin5」を開発・供給している。

Dolphin5には、AI演算を担うNPUを搭載する。Telechipsがチップの演算アーキテクチャを定め、ソフトウェア各社はそれに合わせて開発を進めるという。

AI軽量化企業のNotaは、Dolphin5のNPUアーキテクチャに合わせて顔認識AIモデルを最適化する契約をTelechipsと締結した。

こうした設計力は業績にも表れている。昨年第4四半期から計上されたSoC開発受託売上が業績改善のきっかけとなり、今年第2四半期は受託売上こそ減少したものの、IVIなど既存製品の売上増が寄与し、3四半期連続で営業黒字を確保した。

第2四半期の売上高は前年同期比33.6%増だった。

業界関係者は「SoCが複数の制御機の役割を担う流れの中で、海外製チップを調達して制御機に統合する企業と、チップを自社設計する企業の双方が、それぞれの戦略を実受注と量産につなげられるかが今後の焦点になる」と話している。

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