法律業界でもAI活用が広がっている。写真=Shutterstock

英国とアイルランドの法律業界でAI導入が急速に進み、従来の収益モデルである時間課金の見直し論が強まっている。定型業務の自動化によって処理効率が大きく高まる一方、法律事務所の収益構造や若手弁護士の育成にも影響が広がっている。

CNBCが10月10日(現地時間)に報じたところによると、法律ソフトウェア企業Clioがまとめた「2026年 英国・アイルランド法律インサイト報告書」では、両国の法律実務家の約90%が業務でAIを活用していることが分かった。

AIを導入している法律事務所の約80%は、人員やリソースを増やさずに、より多くの案件を処理できると回答した。さらに7割超が、従来は補助スタッフが担っていた事務作業をAIが処理することでコスト削減につながったと答えた。業務効率が上がるほど、投入時間に応じて報酬を得る従来型の時間課金モデルは見直しを迫られる。

こうした変化は、法律事務所の収益構造に直結する。ロンドンとドバイに拠点を置く法律金融ファンドLexolentの創業者兼CEO、ニック・ロールス=デービス氏は「16秒で終わる仕事に16時間分の料金は請求できない」と指摘した。

自動化の影響がまず及ぶのは反復的な業務だ。同氏は、ひな型文書に必要事項を落とし込む作業をその代表例として挙げた。一方で、複雑な法律助言にはなお人の判断が欠かせないと強調した。AIが出力した内容を解釈し、顧客にとって最適な戦略に落とし込む工程まで自動化するのは難しいという。

課題として残るのが、AIの「ハルシネーション」だ。もっともらしい虚偽情報を生成する問題で、同氏は、存在しない判例を含む書面を裁判所に提出し、制裁を受けた事例も少なくないと指摘した。AI活用が広がるほど、成果物を素早く作る力だけでなく、誤りを検証し責任を負う能力の重要性が増している。

若手弁護士の育成のあり方も見直しを迫られている。文書レビューや契約書のドラフト作成、判例調査は、若手が実務の基礎を身に付ける主要なプロセスだった。AIがこうした業務を代替することで、法律事務所には新たな学習機会をどう設計するかという課題が浮上している。Harveyで欧州・中東・アフリカ地域を統括するホルヘ・ベスタール氏は「ドラフト作成が自動化されたからといって、その後のプロセスまで自動的に速くなるわけではない」と述べた。

採用やキャリア形成にも変化が出ている。A&O Shermanで人材責任者を務めるフランチェスカ・ベネッツ氏は、人材評価では好奇心と起業家精神をこれまで以上に重視していると説明した。法律エンジニアリングやプロダクト開発、AI導入に関わるキャリアパスも広がっているという。一方で、将来のパートナーや専門家となる優秀な弁護士を育成する必要性は変わらないと強調した。

AIで生まれた時間をどう使うかも新たなテーマだ。Clioの調査では、法律関係者の51%が夜間も働いていたが、それを望んでいる割合は32%にとどまった。週末に働く割合は22%で、週末勤務を望むと答えた割合(11%)の2倍だった。Clioのジョシュア・レノン氏は、一部の弁護士はすでに変化を実感しており、AIツールが業務改善に役立っているとの評価も出ていると語った。

今回の動きは、AIが法律業務のスピードを高めるだけでなく、法律事務所の収益構造や人材育成の枠組みにも影響を及ぼしていることを示している。反復業務の自動化が進むほど、弁護士の価値は文書作成にかけた時間ではなく、判断力や検証力によってより強く問われるようになっている。

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