トランプ政権が掲げるテック製品の米国内生産拡大を巡り、全面的な生産移管には巨額の投資と人員確保が必要になるとの試算が示された。米Consumer Technology Association(CTA)は、米国で広く使われる主要テック製品10品目の生産工程をすべて米国内へ移した場合、最大2300億ドル(約34兆5000億円)の設備投資と66万8000人の追加人員が必要になると分析した。生産コストの上昇に伴い、消費者価格も大きく上振れする可能性があるという。
Ars Technicaが7日(現地時間)に報じたところによると、CTAはコンピューターモニター、ノートPC、ロボット掃除機、スマートスピーカー、スマートフォン、スマートウォッチ、テレビ、家庭用ゲーム機、ワイヤレスイヤホン、ワイヤレスヘッドホンの10品目を対象に、サプライチェーンを全面的に米国内へ移した場合の影響を分析した。
それによると、対象製品のサプライチェーン全体を米国内に移管するには、1850億〜2300億ドル(約27兆8000億〜34兆5000億円)の資本支出が必要になる。追加で必要なフルタイム人員は55万5000〜66万8000人に上り、年間の電力需要も191億〜195億kWh増える見通しだ。
なかでも負担が最も大きいのがスマートフォンだ。CTAは、スマートフォンは他の製品群とは負担の規模が大きく異なると位置付け、現行の関税を織り込んだ場合、全工程を米国内で賄うと製造コストは152%上昇すると試算した。
他の製品でもコスト増は大きい。ノートPCは93%、スマートウォッチは97%、テレビは41%の上昇を見込む。消費者が実際に支払う価格も、大幅に上がる可能性がある。
CTAは、企業が増加コストを直ちに全額価格転嫁するとは見ていない。ただ、追加コストの25〜50%が販売価格に反映された場合、対象10品目の加重平均の消費者価格は27〜55%上昇し得るとした。
特にスマートフォンやノートPC、テレビのように一定の買い替え需要がある製品では、価格上昇が家計負担を押し上げる公算が大きい。
人材確保も大きな制約となる。CTAによると、最大66万8000人という追加人員は、米国のコンピューター・電子機器製造業全体の雇用規模の2倍を超える水準に当たる。
CTAの理事会会長を務めるゲイリー・シャピロ氏は、トランプ政権が任期中に半導体生産の50%を米国内へ移す目標を掲げている点について、実現性に疑問を呈した。
シャピロ氏は「約2年後に米国内の半導体生産比率が50%を超えると考えるのは現実的ではない」と述べ、「物理的にも労働力の面でも不可能だ」と指摘した。今すぐ巨額資金を投じても達成は難しいとの見方を示している。
電力供給も課題だ。テック製品のサプライチェーン全体を米国内へ移せば、工場稼働に伴う電力需要が急増する。加えて、AIデータセンターの電力需要拡大も重なる可能性がある。
トランプ政権はAI競争力の強化に向け、昨年12月に「ジェネシス・ミッション」に関する大統領令を出し、半導体、先端ロボティクス、バイオ技術、原子力など中核産業の国内サプライチェーン構築を進めている。これに対しCTAは、製造インフラや人材、電力供給の整備が政策目標に追いついていないと分析した。
CTAは、現実的な代替策として、サプライチェーン全体を一度に移すのではなく、まず組み立て工程から米国内へ戻す段階的なアプローチを提案した。
部品生産まで含めて全面移管するのではなく、最終組み立てのみを米国内で行う場合、企業負担は160億〜190億ドル(約2兆4000億〜2兆8500億円)に抑えられるという。この場合でもスマートフォンの製造コストは67%、ノートPCは50%上昇するが、部品を信頼できる貿易相手国やサプライヤー、同盟国から調達することで、コストショックを和らげられると説明している。
そのうえでCTAは、部品にかかる関税政策の見直しが必要だと主張した。部品関税が米国内での組み立てコストを押し上げ、企業の負担を拡大させるほか、消費者が必需品とみなす製品の値上がりにつながりかねないとしている。
米国内生産拡大を巡る議論では、Appleが代表例として取り上げられる。トランプ大統領は、AppleがインドでiPhoneの生産拡大を表明した後、米国内での生産を強く求めてきた。これに関連し、ウォール街ではiPhoneを米国内で生産した場合、平均価格が1500ドル(約22万5000円)から最大3500ドル(約52万5000円)まで上昇し得るとの見方も出ていた。
Appleの生産網を短期間で米国へ移すのは難しいとの指摘もある。Appleの元製造エンジニア、マシュー・ムーア氏は、世界のiPhone需要を満たすだけの生産人員を米国内で確保するのは事実上不可能だとの見解を示してきた。
CTAは、会員企業の約80%が中小企業である点も強調した。大手テック企業と異なり、中小企業には巨額のコストを投じてサプライチェーン全体を米国内へ移す余力が乏しいためだ。
CTAは、テック製品を一律にリショアリングするのではなく、製品ごとの採算性とサプライチェーンの安定性を踏まえ、段階的に進めるべきだと結論付けた。特にスマートフォンやノートPCのように必需性の高い製品ほど、完全な国内生産に伴う負担が重く、まず米国内の組み立て基盤を整えたうえで生産範囲を広げる方が現実的だとしている。