Microsoftは、WindowsをAIエージェントの実行基盤として強化する方針を打ち出した。処理内容に応じてPCとクラウドに推論を振り分ける「ハイブリッド知能」を軸に、コスト抑制とセキュリティ強化の両立を目指す。
Microsoft Windows+Devices担当エグゼクティブバイスプレジデントのパバン・ダブルリ氏は7日(現地時間)、公式ブログで、Windowsをハイブリッド知能の中核基盤に位置付ける考えを示し、具体的な戦略と差別化ポイントを説明した。
同社はまず、5月の開発者会議「Build」で公開したコーディングモデル「MAI Code 1.1 Flash」(総パラメータ数1370億、アクティブ68億)を圧縮し、サイズを約80%縮小してPCで実行できるようにした。
NVIDIA RTX Sparkを搭載するSurface Laptop Ultraでは、最大128GBの統合メモリにより、1200億パラメータ超のモデルをローカルで動かせるという。年末投入予定のDGX StationのWindows版では、1兆パラメータ超のモデルにも対応可能としている。32個以上のエージェントを同時に起動し、チーム単位の「トークン工場」として活用できる点も訴求する。
ハイブリッド知能に関して、Microsoftはコスト面の優位性を前面に押し出す。
GitHubの「HydraFusion」は、タスクに応じてAIモデルを選択できる機能だ。これまではクラウドベースのモデルが中心だったが、今後はPC上で動作するモデルにも対応する。PC内で完結する処理はローカルで実行し、クラウド利用料を抑えられるというのが同社の説明だ。
ダブルリ氏は「AIモデルの大規模化が進み、クラウド予算だけでは賄い切れなくなっている。顧客は最先端クラスの性能を諦めずに、トークン消費を抑えたいと考えている」と述べた。
セキュリティも、同社が重視する領域の1つだ。
Windows 11で正式提供したMXC(Microsoft Execution Containers)は、エージェントがアクセス可能なファイルやネットワークを定義し、その範囲内で動作させることで分離実行を実現する。
OpenAI CodexとGitHub CopilotはすでにMXCをサポートしており、MetaのパーソナルAIエージェント「Muse」も、MXC上で動作するWindowsアプリとして提供予定という。どのエージェントが何を実行したかを把握する機能に加え、Agent 365とIntuneによるエージェント統制機能も提供する。
ダブルリ氏は「推論をローカルで実行すれば、組織は機微データや知的財産を自社環境内で保護できる」と強調した。
また、Copilotがユーザーの許可を得たうえでPC内のファイルや直近の作業コンテキストを読み取り、ファイル整理やトラブル対応を代行する機能は、Copilot+ PC向けに数カ月以内に提供する。
HydraFusionのローカル連携は10月末に実験版として提供する。DGX StationのWindows版とRTX Sparkベースのミニデスクトップは年末に公開予定だ。Windowsの検索欄から直接作業を実行できる機能については、当面、Windows Insiderの実験チャネル利用者に先行提供する。
一方で、Microsoftにとっては、ハイブリッド知能を巡るエコシステムの構築も課題となる。
AnthropicのClaude Code、Perplexity、Manusなど複数企業がMXC対応を予告しているが、現時点では表明段階にとどまる。MXCは他のOSもサポートするため、AI企業に対してWindowsを選ぶ理由をさらに明確に示す必要があるとの見方もある。これに対しMicrosoftは、Windowsと深く統合し、プロセス分離から仮想マシンまで幅広い選択肢を提供できる点を訴えている。
ハードウェア面も不確定要素となる。ローカルで大規模モデルを動かすには、大容量の統合メモリを備えた高性能PCが必要になる。Microsoftは、RTX Spark PCがAppleのMacBook Pro 16インチ(M5 Pro)と比べ、ファーストトークン応答で最大2.1倍、AI画像生成で4.3倍、動画生成で6.2倍高速だとしているが、いずれも最大値ベースの比較としている。