人工知能の普及により、ホワイトカラーに求められる価値の中身が変わりつつある。米ペンシルベニア大学ウォートン校の組織心理学者でベストセラー作家のAdam Grant氏は、米Wall Street Journal(WSJ)の最近のインタビューで、「人より多くを知っていること」が市場価値に直結する時代は揺らいでいると指摘した。
Grant氏は、新刊『Vibe』の刊行を前に行われたこのインタビューで、AI時代のキャリアをこう整理した。これまで知識労働では、特定分野の専門家となり、他人より多くを知ることが強みとされてきた。だがAIの登場で、その前提は大きく変わり始めているという。
Grant氏は「以前は良いキャリアは能力に左右されていたが、いまは俊敏性が重要になっている。今日の専門性が、明日には通用しなくなるかもしれない」と述べた。
情報そのものがコモディティ化すれば、差がつくポイントも変わる。Grant氏は、パターンを見抜き、点在する情報を結び付け、どの視点が信頼できるかを見極める力が重要になると説明。「専門性以上に、人間の判断力が価値を持つようになる」と強調した。
AIが当面苦手とする領域としては、複数の情報を束ねて説得力のある枠組みにまとめる作業を挙げた。「創造性は、単にアイデアを生み出すことよりも、それを選び、磨き上げる方向に移っているのかもしれない」と語った。
変化した環境に適応する方法として、Grant氏は週に1つ、小さな実験を試すことを勧めた。「こう変えれば改善するのではないか」と思うことを自ら試し、その結果を見て翌週に別の方法を試すという考え方だ。
具体例として挙げたのが、会議の進行役を毎回変えることだ。いつも同じ人が主導すると会議は型にはまりやすいが、進行役を替えるだけでも、これまでと異なる意見が出るか、対話の雰囲気が変わるかを確かめられるという。
またGrant氏は、「人々はテキスト情報に対してますます懐疑的になっている」という仮説を持っていると説明した。その一方で、電話のような音声でのコミュニケーションは十分に活用されていないとみる。普段ならメールで送るアイデアを、あえてZoom会議を設定せず電話で伝え、やり取りの内容や関係性に変化が生まれるかを試してみたいと述べた。
変化を嫌う上司をどう説得するかについても、Grant氏は実践的な方法を示した。まず上司が受けているプレッシャーを認めたうえで、効率を高めるアイデアを3つ提示し、どれを優先するかを問うというものだ。上司の目標に沿った提案になるため、受け入れられやすいとしている。
Grant氏は「交渉研究では、複数の選択肢を示されると、人は受け入れるか拒否するかではなく、どれが最も良いかを考えるようになる。拒否する理由ではなく、受け入れられる案を探し始める」と話した。