Teslaの完全自動運転(FSD)を、より多くの車両で標準機能として提供すべきだとの提言が出ている。イーロン・マスク氏がFSDについて「人間の運転よりはるかに安全」と繰り返し強調してきたことを踏まえ、有料オプションとして販売するより、安全技術として普及を優先すべきだという主張だ。
米EVメディアのCleanTechnicaが10月4日(現地時間)に報じた。掲載された寄稿では、Teslaが月額99ドル(約1万5000円)のFSDサブスクリプションをやめ、すでにFSDを動かせる車両で利用のハードルを下げるべきだと訴えている。
議論の出発点となっているのはマスク氏の発言だ。同氏は4月8日、FSDは人間の運転手よりはるかに安全で、世界の交通事故による死者約100万人のうち90%を減らせる可能性があると主張した。寄稿では、この説明が事実であれば、FSDは収益確保のための追加機能ではなく、広く使われるべき安全技術だと指摘している。
FSDの採用率は約15%にとどまるとされる。裏を返せば、大半のドライバーはまだ利用していないことになる。寄稿では、TeslaがFSD開発に巨額の資金を投じてきた点を認めつつも、人命を守る技術であるなら収益性より普及を優先すべきだと論じた。
具体策としては、2023年半ば以降に生産されたHW4搭載車でFSDを広く有効化し、新車価格には約500ドル(約7万5000円)の安全関連コストを織り込む案を提示した。既存のHW4搭載車のオーナーに対しては、月額99ドルの課金を廃止する案も示している。
利用のあり方そのものを見直すべきだとの指摘もある。現在のように購入者がFSDを個別に選択するのではなく、標準の走行モードとしてFSDを組み込むべきだという提案だ。
寄稿では、筆者自身が2026年型Model YでFSD V14を約4カ月使った経験にも触れている。緊急車両の接近時に車両が自動で路肩に寄せて停止し、その後に走行を再開するなど、さまざまな場面で自律的に対応したと説明した。
一方で、単に無償提供するだけでは利用率の向上につながりにくいとの見方も示した。総走行距離の90%超をFSDで走行する利用者に対し、保険料を大幅に割り引くなど、積極利用を促す仕組みが必要だとしている。
実際、一部の保険会社はFSD利用者向けの割引を導入している。寄稿では、LemonadeがFSD使用区間の走行距離ベース料金を50%割り引いている事例を紹介した。ただ、この商品は米国内の一部州に限って提供されており、適用範囲は限定的だという。
こうした議論は、FSDを選択制のソフトウェア商品ではなく、車両の基本安全装備として位置付けるべきだという考え方につながる。寄稿では、1959年にニルス・ボリンが開発した3点式シートベルトを引き合いに出し、TeslaもFSDをすべての新車の基本機能として提供し、既存車にも最新ソフトウェアを有効化すべきだと主張した。
さらに長期的には、FSDを他の自動車メーカーにも開放すべきだとの意見も示した。TeslaがEV向け充電規格「NACS」を業界全体に広げたように、FSDも自動運転技術の標準になり得るという見方だ。
もっとも、カメラ中心のTesla方式が、LiDARやレーダーを併用する他社の自動運転システムと同等の安全性を確保できるかどうかを巡っては、なお議論が残る。FSDの普及拡大には、技術的な安全性の検証に加え、収益モデルや保険、規制面の整理が課題となりそうだ。