IBMの量子プロセッサ「Nighthawk r2」が、量子優位の検証で用いられるランダム回路サンプリングで100万サンプルを19秒で生成した。研究チームは、同じ条件の処理を最先端スーパーコンピュータで実行した場合、約110年を要すると見積もっている。
GIGAZINEが30日付で報じたところによると、米量子ソフトウェア企業BlueQubitの理論凝縮系物理学者ティグラン・セドラキアン氏の研究チームは、IBMの「Nighthawk r2」を使ったランダム回路サンプリング実験の結果をまとめたプレプリントを公開した。
ランダム回路サンプリングは、ランダムに構成した複雑な量子回路を実行し、得られたビット列を大量に収集する手法だ。量子コンピュータが特定の計算で古典計算機を上回るかを測る初期ベンチマークの一つとして使われている。
研究チームはNighthawk r2で61量子ビットを用い、最大40サイクルのランダム回路を適用した。この条件では、単一の出力振幅を求めるだけでも約10^22回の複素数演算が必要になると試算した。
そのうえで、古典的な手法で100万サンプルを収集するには、最先端スーパーコンピュータを使っても約110年かかると推定した。
一方、量子プロセッサによる実験では、36サイクルの条件で100万サンプルの生成に19秒を要した。研究チームは、この結果が研究用の特注機ではなく、一般に利用可能なIBMの商用量子プロセッサで得られた点に意義があるとしている。
研究チームは、今回の結果が一般的なランダム回路サンプリングで量子優位を示した事例だと主張している。量子優位とは、特定の計算タスクで量子コンピュータが古典計算機では現実的に実行が難しい計算をこなせることを示す概念を指す。
もっとも、今回の結果をもって、量子コンピュータがあらゆる計算でスーパーコンピュータを上回ると解釈することはできない。比較対象はランダム回路サンプリングという特定のベンチマークに限られており、産業現場で用いられるデータ分析や最適化、新薬開発などで同様の性能差が生じることを意味するものではない。
また、今回の研究結果は査読前のプレプリントとして公開された段階にある。研究チームは、非専門家の量子コンピュータ利用者でも今回の実験を比較的容易に再現できるとしている。
今後は、他の研究者が同一条件で結果を再現できるかどうかに加え、査読の過程で実験手法や性能比較の妥当性が検証されるかが焦点となる。
今回の結果は、量子コンピュータの性能競争の焦点が、研究室で開発された特殊な装置だけでなく、実際にアクセス可能な商用プロセッサへ広がっていることを示す事例ともいえる。特定ベンチマークで従来手法との差を示した技術的意義はある一方、産業的な価値は、こうした成果を実問題の解決につなげられるかどうかにかかっている。
IBMの量子プロセッサが今回の実証を足がかりに、実際の産業課題でも古典計算機との差別化を示せるかどうかが、今後の量子コンピューティング市場の関心点となりそうだ。