NVIDIAは、ドイツのスーパーコンピュータ「JUPITER」を使って104キュービット級の量子計算シミュレーションを実施し、量子誤り訂正に必要な物理キュービットを従来方式比で最大90%削減できる可能性を確認した。大規模量子システムの誤り特性をGPUスーパーコンピュータ上で解析し、実用的なフォールトトレラント量子コンピューティングに必要な資源を圧縮できる可能性を示した。
TechRadarが現地時間10月22日に報じた。NVIDIAの研究チームは、ドイツのユーリヒ・スーパーコンピューティングセンターでシミュレーションを実施。誤り訂正で使う特殊な量子資源「マジック・ステート」を効率よく準備する技術に焦点を当てた。
中核となるのは「Magic State Cultivation」だ。量子コンピュータが複雑な演算を正確に実行するには、外部環境の干渉などで生じる誤りを抑える必要がある。量子システムの大規模化に伴って誤り管理は難しくなるため、計算精度を維持しながら必要な物理キュービット数を抑える技術が重要になる。
今回の研究の特徴は、実機の量子ハードウェアに近いノイズ条件をシミュレーションに反映した点にある。理想環境を前提とした従来の検証に比べ、より現実に近い誤りの振る舞いを分析できるようにした。
ユーリヒではこれまで、理想条件下で50キュービット規模のシミュレーションが行われていた。今回は対象を104キュービット規模まで拡大し、現実的なノイズも考慮したうえで、誤り訂正手法の性能を検証した。
研究チームは、その結果としてMagic State Cultivationにより、誤り訂正に必要な物理キュービット資源を従来方式比で90%削減できることをシミュレーション上で確認した。ただし、これはあくまでシミュレーション結果であり、実際の量子プロセッサでも同等の削減効果が得られるかどうかは今後の検証が必要だとしている。
NVIDIAの最高経営責任者(CEO)ジェンスン・フアン氏は、有用な量子コンピューティングの実現には複雑なフォールトトレラントシステムが必要だと強調した。大規模環境でシステムがどう動くかを理解することが、実装に向けた前提になるとの見方を示した。
フアン氏は今回の研究について、量子プロセッサとGPUベースのスーパーコンピュータを組み合わせることで、これまで扱いにくかった研究を進められることを示した事例だと述べた。
計算基盤にはJUPITERを用いた。研究チームはNVIDIAのGH200プロセッサをベースにシミュレーションを実行し、計算規模を最大8192基のGPUまで拡張した。
JUPITERで本格的なシミュレーションを走らせる前には、NVIDIA加速量子研究センターのGB200 NVL72システムで関連手法を事前検証した。GPU4基から始め、数百基規模まで計算資源を増やしながら性能と精度を確認したうえで、JUPITERでの実行に移った。
こうした事前検証により、計算時間の短縮にもつながった。研究チームによると、従来は数週間を要していたシミュレーションを数日規模に短縮でき、JUPITERの計算資源をより効率的に活用できたという。
ソフトウェア面では、NVIDIAのcuQuantumとCUDA-Qを活用した。量子回路とMagic State Cultivationの演算を実装し、GPUベースの古典計算環境で大規模量子システムの挙動をモデル化した。
大規模な量子計算シミュレーションは、実機の量子プロセッサを製作する前に設計を評価し、誤り訂正方式を検証する用途に使える。開発初期段階で高コストな物理実験の負担を抑えられるほか、必要なハードウェア規模や資源配分の見積もりにも役立つ。
とりわけ、新薬開発や金融モデリングのように複雑な計算を要する分野で量子コンピューティングを実用化するには、演算規模の拡大だけでなく、誤り制御技術の確立が欠かせない。誤り訂正に必要な物理キュービット数を減らせれば、システム構築に伴うハードウェア負担の軽減につながる可能性がある。
一方で、今回の成果は古典計算基盤上で量子システムを模擬した結果に基づくものだ。シミュレーションで確認した資源削減効果が実機の量子ハードウェアでも再現できるかどうかが、次の検証課題となる。
今回の研究は、実用量子コンピューティングの実現そのものを意味するわけではない。ただ、大規模量子システム向けの誤り訂正技術を設計・検証するうえで、GPUスーパーコンピュータが重要な役割を担うことを示した事例といえる。