大規模言語モデル(LLM)とは異なるアプローチを採るAIモデルの台頭が鮮明になってきた。表形式データの予測に強いTabular Foundation Model(TFM)、文章生成ではなく判断に特化した意思決定モデル、実行中のプログラムを自律的に最適化するCode Execution Model(CEM)などが相次いで登場し、SAPやNVIDIA、Microsoft、AWS、Cloudflareなどが展開を急いでいる。
業界では、LLM一辺倒ではないAIモデルへの関心が高まっている。注目されているのは、表形式データの予測に特化したTFM、テキスト生成ではなく判断や選択に軸足を置くモデル、さらに人手を介さずプログラム実行を最適化するCEMといった分野だ。
TFMは、売上記録や取引履歴、顧客情報など、行と列で整理された構造化データを基に予測を行うモデルを指す。企業が保有する表形式データを活用しやすい点が特徴とされる。
市場調査会社Gartnerは、2027年の注目キーワードの1つとしてLarge Quantitative Models(LQM)を挙げた。LQMは、定量データの処理や分析を目的に設計されたモジュール型のハイブリッドニューラルネットワークアーキテクチャで、事後対応型の問題解決から一歩進み、シミュレーションに基づく先回りの意思決定を可能にするとしている。
TFM分野には、すでに複数の企業が参入している。SAPは、TFMを強みとするPryor Labsを買収した。NVIDIAも、表データ予測向けのオープンなファウンデーションモデル「Kumo Tabular」を、AIモデル共有プラットフォームのHugging Faceで公開している。
Kumo Tabularは、NVIDIAが6月に買収したエンタープライズ向け予測AIソフトウエアのスタートアップKumo AIの技術を基盤にしているとみられる。Kumo AIは、顧客情報や決済データなどの構造化データを基に、予測型の問いに対応するAIモデルを開発してきた。Nums AIも独自のLFM「Causilo」を公開し、市場開拓に乗り出している。
一方、テキスト生成ではなく、確率に基づく判断を主眼に置く意思決定AIモデルも、この1カ月ほどで新たな成長領域として急速に存在感を高めている。
OpenAI出身のディオゴ・アルメイダ氏が設立したTypesafeAIが9月に「jev」を公開して以降、OpenAIやAmazon Web Services(AWS)、Cloudflareなど大手各社も、同種の意思決定AIモデルを巡る開発競争に乗り出した。
jevは、複雑な状況判断や選択肢が限られた設問に対し、文章ではなく判断結果と確率を返すモデルだ。TypesafeAIは、AIエージェントに適したモデルだとしている。
この分野への参入も広がっている。Microsoftは、迅速な意思決定に特化したAIモデル「Microsoft-Decision-1」を公開した。
Cloudflareは、意思決定モデル「Clef」と連携するAIモデル「Cleric」のプレビュー版を公開した。文書や画像から情報を迅速かつ低コストで抽出できるのが特徴で、メールや領収書の画像など未整理の資料から氏名、日付、金額などを取り出す。資料内にない値については計算や推定を行い、将来の数値予測にも対応する。LLMのように文字を1つずつ生成するのではなく、回答を一括で返す仕組みで、料金は入力データに対してのみ発生する。回答の多くは1秒以内に得られ、該当する答えがない場合はもっともらしい値を作らず「なし」と表示する。各回答には信頼度スコアも付与する。
NVIDIAが出資するイスラエルのスタートアップDoubleAIが提唱するCEMも注目を集めている。DoubleAIは、CEMを新たなAIカテゴリーと位置付けている。
米Wall Street Journal(WSJ)によると、CEMはLLMと異なり、実行中のプログラム内で人手を介さず自律的に動作し、コードをより効率的に実行する方法を自ら見つけ出すという。DoubleAIの最初の製品「Maxwell」は、GPUとCPUの性能を引き上げ、急増するコンピューティングコストの抑制を支援する。
収益モデルも特徴的だ。DoubleAIは、顧客が削減したコストの一部を手数料として受け取る。初期顧客の1社はコンピューティングコストを67%削減したと同社は説明している。WSJによると、AI企業LTXはMaxwellの導入により、モデル推論速度を2倍に高めた。
DoubleAIは、自動運転企業Mobileyeの共同創業者であるアムノン・シャシュアCEOが設立した。Lightspeed Venture Partners、Bessemer Venture Partners、NVIDIA、Dellなどから、これまでに2億2000万ドル(約330億円)を調達している。