HSBCのジョルジュ・エルヘデリ最高経営責任者(CEO)は、AI需要の拡大を背景に注目を集めるデータセンター投資について、一律に有望視すべきではないとの認識を示した。契約内容や採算性を精査し、選別して投資する必要があるとした。CNBCが20日(現地時間)に報じた。
エルヘデリCEOは、AIを大規模投資の対象と位置付ける一方で、これを支えるインフラ投資では契約構造と収益性の見極めが欠かせないと述べた。
同氏はAIについて、銀行全体を再設計し得る中核技術だと説明した。「AIは、あらゆる事業や業務のあり方を見直す原動力になる」とした上で、生産性向上を通じて従業員の能力を高めるとの見方を示した。HSBCもAI導入を本格的に進めており、銀行の再設計に役立つとの認識を示した。
一方、データセンター投資については過度な楽観論を戒めた。「選別的にアプローチすべきだ」と述べ、賃貸借契約の質や契約価格を併せて見極める必要があると指摘した。資産によっては十分な裏付けを欠き、投資判断が難しい案件もあるとの見方も示した。
こうした発言の背景には、AIとクラウド需要を追い風としたデータセンター市場の急拡大がある。AIやクラウドコンピューティングを支えるサーバーを収容するデータセンターには、ここ数年で数十億ドル規模の投資が流入している。マッキンゼーは、2030年までに世界のデータセンター支出が7兆ドルに達する可能性があると試算している。
市場の関心は、設備拡大そのものから資金調達のあり方へと移りつつある。大手テック企業はデータセンター開発資金を確保するため、プライベートクレジットや社債発行を増やしている。こうした動きの中で、AI関連の借り入れ拡大は金融市場の新たな懸念材料として浮上している。資本コストが上昇する局面でも、企業が巨額の負債を積み増しながらAIとデータセンター増設競争を進めているためだ。
Allianzのチーフエコノミックアドバイザーで、元PIMCO CEOのモハメド・エルエリアン氏は今月初め、ロンドンで開かれたイベントで、政府とAI企業による資金調達競争が債券市場への圧力を強めていると指摘した。政府が高金利環境の下で借り換え債の発行を続ける一方、ハイパースケーラーは昨年、2000億ドルの社債資金を調達しており、今年は1兆ドルまで増える可能性があると述べた。これら企業は真に変革的な技術に賭けているため、利回りや上乗せ金利に対する感応度が低いとも説明した。
こうした資金需要はマクロ環境とも連動している。2026年に入り、主要国の国債利回りは、高水準の財政赤字や累積債務、根強いインフレ懸念、さらに中央銀行のよりタカ派的な見通しを背景に、数十年ぶりの高水準へ上昇した。JPモルガンは年初、データセンターやそのほかのAI関連企業による設備拡大を背景に、2030年末までのAI関連債務発行額が4兆1000億ドルに達すると推計した。
HSBCの立場も、この構図と無関係ではない。S&Pグローバルによると、HSBCは昨年、総資産約3兆ドルを抱える世界有数の銀行で、欧州最大の貸し手とされた。ロンドンに本社を置くHSBCは、データセンター向けの資金提供者であると同時に、自ら運営主体でもある。2025年の年次報告書では、データセンターやAI分野を含む顧客基盤を踏まえ、急成長する移行エコシステムのリーディングバンクを目指す方針を示していた。
今回の発言は、AIそのものの成長性よりも、その成長を支えるインフラ資産の質を見極めるべきだというメッセージといえる。AI需要の拡大が、データセンター全般の投資魅力を自動的に保証するわけではなく、今後は契約の安定性や資金調達コストを軸に、個別資産の選別が一段と重要になりそうだ。