韓国で、政府支援事業を通じて構築したAI学習データの公開を義務付ける制度整備が進んでいる。焦点となっているのは、民間企業が自社負担で確保・加工したデータまで公開対象に含めるのかという点だ。政府支援と民間資金が併用される案件での公開範囲の線引きに加え、営業秘密を理由に提供除外を求める場合の判断基準も論点に浮上している。
韓国科学技術情報通信部などによると、政府事業の遂行過程で構築・産出されたAI学習データについて、国家AIデータプラットフォーム「AIハブ」への連携・提供を義務付けるAI基本法改正案が、今月1日に国会本会議を通過し、13日の国務会議で議決された。施行は2027年4月を予定しており、政府は現在、下位法令の整備を進めている。
改正の狙いは、政府予算で整備したデータを特定の機関や企業にとどめず、他の企業や研究機関にも活用できるようにすることにある。一方で、政府が直接発注するデータ構築事業と、民間企業が参加するAI開発事業ではデータ確保の方法が異なるため、どこまでを公開対象とみなすかを明確にする必要がある。
◆官民共同投資のデータ、公開範囲はどこまでか
代表例として挙がるのが、独自AIファウンデーションモデル(独自ファモ)プロジェクトだ。韓国科学技術情報通信部と韓国知能情報社会振興院(NIA)は8月、独自ファモの第1段階評価に参加した5チームが、データ構築・加工予算150億ウォンで確保した学習データ29種、約3,544万件をAIハブで公開した。
当時の事業条件は、この予算で確保したデータの50%以上を公開することだった。Naver Cloud、Upstage、SK telecom、NC AIは、品質と権利関係の検証を終えたデータをすべて公開し、LG AI Researchは義務公開分を満たすよう対象データを選別して公開した。
これまでは、個別事業ごとの公募要件や協約に基づいて公開範囲を定めてきた。今後は法律に基づく提供義務が適用されるため、独自ファモのように政府支援金と企業の自己資金が併用される事業では、どのデータを公開対象とするのか、既存の事業条件と法的義務をどう整合させるのかが争点となる。
とりわけ、企業が従来から保有していたデータを政府事業に活用した場合や、自社負担で追加加工した場合に、そのデータまで公開対象に含まれるのかについては、明確な基準づくりが求められている。
AIデータ加工企業の関係者は「企業が自社負担で調達したデータまで無条件に公開義務の対象になるとは考えにくい」としたうえで、「ただ、政府事業に参加しながら既存データを追加加工したケースや、政府支援金と自己資金を併用したケースでは事情が異なる可能性がある。どこまでを公開対象とみなすかについて、法的な整理が必要だ」と話した。
◆営業秘密の例外、政府の判断基準が鍵に
もっとも、公開対象に該当しても、すべてのデータを一律に提供しなければならないわけではない。改正案では、事業実施者などが営業秘密の保護、個人情報や著作権の侵害、国家安全保障上の問題など、大統領令で定める事由に当たると判断した場合、韓国科学技術情報通信部長官との協議を経て、データ提供の対象から除外できると定めた。
このため、企業が営業秘密などを理由に提供除外を求めた際、政府がどのような基準で判断するのかが新たな論点となっている。例外を広く認めすぎればデータ開放義務が形骸化するおそれがある一方、公開範囲を広く解釈しすぎれば、企業の中核技術や第三者とのデータ利用契約を損なう可能性もある。
韓国営業秘密保護協会も13日、AI基本法改正に関する公式見解を公表した。協会は、営業秘密がデータ公開義務の例外事由として明記された点を前向きに評価する一方で、「企業による事前の管理体制整備と、政府による公開除外手続きや判断基準の具体化を並行して進める必要がある」と強調した。
特に、製造AIやフィジカルAIの分野では、生産工程や設計情報、品質管理のノウハウなどが学習データに含まれる可能性がある。企業の自社情報だけでなく、協力会社と共同で確保したデータの権利関係まで含めて検討すべきだとしている。
韓国科学技術情報通信部は、こうした論点を踏まえて下位法令を整備する方針だ。同部関係者は「法施行まで6カ月の準備期間があり、立法予告や次官会議などの手続きも必要になるため、年内には施行令改正案のたたき台をまとめる必要があるとの認識だ」と説明。そのうえで、「官民が共同投資したデータの公開範囲や、営業秘密を理由とする例外の判断基準など、提起された事項を検討していく」と述べた。