日本政府が、育児や食料品向けなど使途を限定した給付金に、ステーブルコインやトークン化預金を活用する案の検討に入った。議論の射程は給付金にとどまらず、国債や銀行間決済インフラのオンチェーン化にも及んでおり、官民でオンチェーン金融の制度整備を進める動きが広がっている。
CoinPostによると、金融庁は9月30日に開催した「AI時代を見据えたオンチェーン金融フォーラム」第1回会合の議事録を公表した。2027年初めをめどに中間整理をまとめ、官民連携のロードマップを策定する計画だ。
会合には金融庁のほか、デジタル庁、財務省、日本銀行、全国銀行協会などが参加した。実取引にひも付くプログラマブル決済の活用拡大、オンチェーンとオフチェーン決済の連携、決済インフラの安定性と安全性の確保が主な論点となった。
デジタル庁は、政府給付をオンチェーン金融の優先検討分野に位置付けた。ハスイ戦略・組織グループ総括官は、育児や食料品購入など使途を限定した支援金について、ステーブルコインやトークン化預金を適用できるかどうか、技術面から検討する考えを示した。
プログラマブル決済は、あらかじめ設定した条件に基づいて資金の使途や取引執行を制御する仕組みだ。公的支援金に適用すれば、給付目的に沿って使途を制限するなど、資金執行をよりきめ細かく設計できるとみられている。
一方で実装に向けては、ステーブルコインを通貨に準ずる決済手段として位置付けられるかどうかなど、法的な論点の整理が欠かせない。デジタル庁は関連法令の整理を並行して進め、今後発足するAIデジタル改革推進会議で省庁横断の協議を続ける方針だ。
オンチェーン化の検討は給付金に限らない。財務省は10月、国債のオンチェーン化の可能性を検討する専門家研究会を立ち上げ、10月8日に初会合を開いた。
日本銀行も、中央銀行当座預金をブロックチェーン基盤の決済に活用する技術検証を進めている。カミヤマ理事は「DLT連携サンドボックス」を通じて、中央銀行資金と分散型台帳技術(DLT)ベースの決済を連携できるかどうかを試していると説明した。
全国銀行協会も、より多くの金融機関が参加できる仕組みや、次世代の銀行間決済インフラの在り方を議論する検討会を発足した。政府と金融業界が、給付金、国債、銀行間決済を一体的に見直し、金融インフラ全体のオンチェーン転換を探る構図だ。
国際連携の枠組みづくりも進める。金融庁のイイズカ審議官は、アジア地域で政府と民間が参加する政策対話の場を整えるため、2027年2月に「アジア・デイ2027」を開催する意向を示した。
会合では、オンチェーン金融の導入を拙速に進めるのではなく、実際のユースケースを起点に段階的に広げるべきだとの意見も出た。
Brunswick Groupのウイ・マサト元日本銀行関係者は、関連インフラが不足しているために事例が生まれず、事例が少ないためにインフラ整備も進まないという「鶏と卵」の問題が続いてきたと指摘した。そのうえで、個別政策から小さく始めて検証し、段階的に拡大するアプローチが必要だと述べた。
技術選択とリスク管理も主要テーマとして挙がった。東京大学のカンダ・ヒデキ名誉教授は、オンチェーンとオフチェーンをどう組み合わせるのが最適かは状況によって変わる「動く標的」だと説明した。名古屋商科大学大学院のオオツキ・ナナ教授は、人工知能の誤作動など潜在リスクをストレステストで点検しつつ、あらゆるリスクの排除を目指す過度な対応は避けるべきだと強調した。
取引の透明性と利用者の信頼確保も大きな論点となった。PwC Japanのスズキ・チカコは、プログラムにガバナンスを委ねる仕組みがブラックボックス化すれば、「信頼の空白」が生じかねないと指摘。取引、本人確認、決済に至る全工程を追跡し、監査可能な記録を残す体制が必要だと提案した。
国内の技術競争力をどう確保するかも課題に挙がった。東洋大学のノザキ・ヒロシゲ教授は、既存の金融システムの完成度が高いほど置き換えは難しいとしたうえで、長期的には日本銀行当座預金のトークン化が有力な選択肢になり得るとの見方を示した。
早稲田大学大学院のネモト・ナオコ教授は、海外の大手事業者がすでに実利用の段階に入る中、日本の銀行が出遅れれば、日本やアジア企業の決済業務が海外に流出する可能性があると警鐘を鳴らした。上智大学のモリシタ・テツロ教授も、人工知能とブロックチェーンの中核技術を海外に依存し続けることの妥当性を検証すべきだと述べた。
金融庁資料によると、世界のステーブルコイン発行残高は約3100億ドル(約46兆5000億円)で、このうちドル建てが83%を占める。国際決済銀行(BIS)が調査した90の法域のうち、約3分の1で商業銀行がトークン化預金事業に参入しているという。
金融庁の決済高度化プロジェクトの支援案件も4件に増えた。金融庁は9月29日、貿易実務でステーブルコインを活用する事例を4件目の支援案件として公表した。
今回の議論は、オンチェーン金融を単なる技術実証にとどめず、公的給付や金融市場インフラへの適用を見据えた制度・技術両面の検討へ広げている点で注目される。今後は、公的支援金で実際の活用事例を生み出せるか、中央銀行資金と民間の決済インフラをどう接続するかが焦点となりそうだ。