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人工知能(AI)産業の急成長に対し、AI企業の法的責任をカバーする保険商品の供給が追いついていない。AIの事故や著作権侵害を巡る訴訟リスクが広がるなか、保険業界では免責条項の導入・拡大も進んでおり、AI時代における保険の役割が問われている。

米Wall Street Journal(WSJ)によると、チャットボットを巡る被害や、モデルの学習過程における著作権侵害を争点とする訴訟はすでに相当数に上る。足元では、制御不能となったAIエージェントがWebサイトをハッキングする事案も発生しており、訴訟に発展する可能性が高まっている。

AIチャットボットが自殺や殺人を促した疑いを巡る議論も広がっている。AIリスクに特化した保険会社は、大手AI企業が抱え得る潜在的な法的責任について、数百億ドル、多ければ数千億ドル規模に達する可能性があるとみているという。WSJは、企業や保険会社では負担しきれない賠償責任について、米政府が引き受けるべきだとの主張も一部で出ていると伝えた。

こうしたなか、保険会社も、制御不能なAIエージェントの事故に起因する数百万ドル規模の保険金請求に備え始めている。

英Financial Times(FT)によると、保険仲介大手AonはAI関連訴訟およそ300件を分析した。その結果、犯罪、知的財産、メディア賠償責任、サイバーセキュリティ、技術的な過誤や不作為を補償する保険などで、補償対象となり得るとみているという。

FTはこのほか、保険会社が製造物責任、アルゴリズムによる差別、個人情報、不当死亡を巡る訴訟にも備えていると報じた。

ただ、AIの進化のスピードに保険業界が十分対応できているとは言い難い。AIに起因する損失は既存の保険区分に収まりにくく、工場ロボットの誤作動による人身・物的損害から、著作権侵害、無断のデータ流出、ハルシネーションによる誤り、規制当局による制裁金まで、リスクの幅が広いからだ。

WSJは、米シンクタンクのランド研究所の見方として、何が補償対象で何が対象外かを巡って紛争が起きやすいと報じた。AI企業は一般賠償責任保険やサイバー保険といった既存商品に加入できるものの、業界の急成長に伴い、AI関連の請求額が既存の補償限度額を上回る可能性があるという。

AI専用の保険商品もあるが、補償規模はなお小さい。再保険会社Munich Reが販売するAIモデルの誤作動保険の限度額は最大5000万ドルにとどまる。

英AI保険会社Testudoのジョージ・ルウィン=スミス最高経営責任者(CEO)は、大手AI企業には数十億ドル規模の保険を購入する意思も資金力もあるが、それに見合う補償は「地球上に存在しない」と述べた。

AI企業向け保険市場が成熟しない背景には、AI企業を取り巻く責任環境が、他のテクノロジー企業とは異なる点もある。

ポータルサイトやソーシャルメディアは、1996年制定の連邦法「第230条」によって、プラットフォーム上のコンテンツ責任を相当程度回避してきた。Moody's Analyticsは、AI企業はコンテンツ生成に直接関与するため、この条項が強力な防波堤にはなりにくいと分析した。

その一方で、企業向け保険では、AI関連損害を補償対象から外せる条項も広がりつつある。

標準約款を提供するVerisk傘下のInsurance Services Office(ISO)は今年、生成AIに関する選択型の免責条項を導入した。エージェンティックAIへの拡大も検討している。WSJは、AIGやChubbなどの大手保険会社も、必要に応じて同条項を適用可能だと報じた。

これに対し、世界最大の保険仲介会社Marshは、AI免責は保険業界の「後退」であり、補償を巡る不確実性と紛争を増やすだけだとの立場を示した。免責条項を適用する保険会社があれば、顧客には別の引受先を探すよう勧める方針も明らかにした。

一方で、保険が本来の機能を果たせば、AIリスクを抑える規律として機能し得るとの見方もある。AI保険では、誤作動の可能性をシミュレーションで評価したうえで引受審査を行うことが多く、事実上の技術監査の役割を果たせるという。

WSJは、保険会社が加入条件として安全装置の導入を求めれば、開発企業と利用者の双方にとって、一種のガードレールになり得ると伝えた。

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