AIが量子計算手順の設計と最適化を進めたことが今回の焦点。写真=Shutterstock

Anthropicは、AIモデル「Claude」が量子計算の手順を自動設計し、8種類のうち7種類で既存の最適設計より必要な量子ビット数や演算回数を削減したと発表した。設計によっては資源効率が10倍超改善したという。楕円曲線暗号に関わる演算では、演算回数を最大で約17分の1に抑えた。ただし、ビットコインやイーサリアムの暗号方式を実際に解読したわけではないとしている。

今回の研究では、量子コンピュータの実用化に向けて重要となる、量子ビット数と演算回数の削減に焦点を当てた。Claudeが量子計算の手順を設計し、その結果を検証しながら改善を重ねることで、従来より資源消費の少ない方式を見つけたとしている。

注目される背景には、量子計算の効率化が暗号解読に必要な資源規模に影響し得る点がある。ビットコインとイーサリアムは、取引署名に楕円曲線暗号を用いる。通常のコンピュータでは公開鍵から秘密鍵を現実的な時間内に逆算するのは困難だが、十分な規模の量子コンピュータが実現すれば、この前提が揺らぐ可能性がある。秘密鍵が漏えいすれば、保護された資産が不正に移転される恐れもある。

Anthropicが特に着目したのは、楕円曲線暗号関連の量子計算で繰り返し使われる「点の加算」だ。これは楕円曲線上の2点から新たな点を求める演算で、暗号解読に用いられる量子アルゴリズムの中核の一つとされる。この部分に必要な資源を削減できれば、全体の計算効率にも影響する。

研究チームは、計算手順の仕様を自然言語でClaudeに与え、設計案の正確性を検証しながら、量子ビット数と演算回数の積を指標に評価する仕組みを構築した。Claudeはその評価結果をもとに設計案を繰り返し改良した。人が細かな手順を直接設計するのではなく、AIが検証結果とスコアを踏まえて、より効率的な方式を探索する枠組みといえる。

暗号解読に関わる課題では、コストの大きい点の加算を対象に、約53時間にわたり、ほぼ人手を介さず新たな計算方式を探索した。その結果得られた設計案の一つは、既存の最小設計より量子ビット数が12%多い一方、演算回数は約17分の1に減った。量子ビット数を一部増やす代わりに、全体の演算負荷を大きく下げる設計を見いだした形だ。

もっとも、今回の研究成果は、ビットコインやイーサリアムの暗号方式を実際に破ったことを意味しない。Anthropicは、暗号資産を直接標的にした攻撃は実施しておらず、暗号解読に必要な量子コンピュータの総規模も示していないと説明している。計算手順の効率改善と、実際に暗号を解読できる量子コンピュータの実装は別の問題だという立場だ。

量子コンピュータそのものの規模も、依然として大きな制約だ。Anthropicの資料によれば、現時点の量子コンピュータは数百~数千量子ビットの水準にとどまる。一方でGoogleは3月、ビットコインの署名に使われる暗号の解読に必要な量子ビット数が50万未満に収まる可能性があるとの推計を公表していた。ただし、実際に必要となる規模は計算方式や誤り訂正など複数の条件で変動し、単純な比較はできない。

Anthropicは今後、AIが個別の計算手順の最適化にとどまらず、量子コンピュータを構成する各要素を横断的に最適化し、特定用途に合わせたシステム全体の設計まで担う可能性があるとみている。ソフトウェアレベルのアルゴリズム改善だけでなく、量子コンピューティングのハードウェア設計にも役割が広がる可能性があるという。

今回の成果は、暗号資産の安全性に直ちに脅威を与えるものというより、AIが量子計算の効率を高め得ることを示した事例といえる。今後、AIを活用した最適化がさらに進めば、量子コンピュータの実用化の速度や、暗号方式の長期的な安全対策を巡る議論にも影響を及ぼす可能性がある。

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