暗号資産取引所Mt.Goxの元CEO、マーク・カーペレス氏が、暗号資産向けハードウェアウォレット「Ledger」の改ざんを検知する低価格デバイスの開発計画を明らかにした。改ざんされたLedgerから復旧フレーズが盗まれる事案が報告される中、サプライチェーン上のセキュリティ対策として注目を集めている。
ブロックチェーンメディアのU.Todayによると、カーペレス氏は10月18日(現地時間)、X(旧Twitter)への投稿で、ウォレットを分解せずに内部の不正部品の有無を確認できるデバイスの開発構想を公表した。
同氏は「自分のLedgerは安全なのか。内部にスパイ用の埋め込み部品はないのか」と問題提起し、利用者自身が機器を開封せずに不審なハードウェア部品の有無を点検できる仕組みを目指すとしている。
デバイスは、低出力の無線信号と共振を利用したテストにより、ウォレット内部に正規でないアンテナ部品が組み込まれていないかを検出する方式を想定する。外部から内部部品の特性を調べ、機器改ざんの可能性を見極めるのが狙いだ。
カーペレス氏は、一般ユーザーでも使いやすいよう製造コストを抑える方針も示した。プリント基板(PCB)の設計データや技術仕様を公開し、ユーザーが自作できるようにする案も示している。実現すれば、専門機材や分解作業を伴わずに改ざんの有無を初期的に確認する手段となる可能性がある。
もっとも、現時点で実機は公開されておらず、第三者による性能検証も行われていない。不正部品をどの程度の精度で検出できるのか、正常な部品を誤って改ざん部品と判定する可能性はないのかなど、今後の検証が必要だ。この装置だけでウォレットの安全性を完全に保証するのは難しい。
今回の計画が注目される背景には、東南アジアの販売業者経由で流通した改ざんLedgerを巡る問題がある。攻撃者が正規品を入手したうえで内部に秘密の電子部品を組み込み、その後、市場に再流通させたとされるためだ。
Ledgerのセキュリティチームによると、この部品は、ユーザーがウォレットを初期化する際に24語の復旧フレーズを収集できるよう設計されていた。復旧フレーズはウォレット内の暗号資産にアクセスするための中核情報であり、攻撃者に漏れれば、端末そのものが奪われなくても資産流出につながるおそれがある。
問題の部品は、ウォレット内部のeSIMを通じてLTEネットワークに接続し、収集した情報を外部の攻撃者へ送信できたとされる。独立系の研究者は、この事件による暗号資産の被害額が9000万ドルを超えると推計している。
Ledgerは10月15日、公式見解として、自社のセキュリティチップやオペレーティングシステム、サーバーは侵害されていないと発表した。原因については、犯罪者が流通過程で製品を確保した後にハードウェアを改ざんしたためだと説明し、社内システムの侵害ではなく、流通段階での改ざんが問題だと強調した。
再発防止に向けては、流通面の対策も強化する。Ledgerは承認リセラーに関する基準を厳格化し、返品された製品の再販売を禁止すると明らかにした。店頭で自由に手に取れる形で製品を陳列しない運用も進め、流通過程で第三者が機器に接触する可能性を減らす考えだ。
カーペレス氏の取り組みは、メーカーや販売事業者による管理に加え、ユーザー自身が機器を点検できる防御手段を用意しようとする試みといえる。ハードウェアウォレットは秘密鍵を安全に保管するための手段だが、流通過程で本体が改ざんされれば、ソフトウェア面の防御だけではリスクを防ぎきれない可能性があるためだ。
最終的な実効性は、実機の公開と第三者検証にかかっている。低コストで不正部品を高精度に見つけられるのであれば、ハードウェアウォレット利用者のセキュリティ確認のあり方を変える可能性がある。一方で、具体的な性能が確認されるまでは、実験段階の対策として慎重に評価する必要がある。