Google DeepMindは、AIが自らより高度なAIを生み出し、研究開発を急速に加速させるような現象について、現時点でそれを裏付ける証拠は確認されていないと明らかにした。
ブロックチェーン系メディアDecryptが15日(現地時間)に報じたところによると、同社はGemini 4 Argonの安全報告書の中で、社内のAI研究開発の速度が有意に高まったことを示す証拠は見つからなかったと説明した。
報告書によれば、DeepMindでは本番環境向けコードの75%超をAIが作成している。それでも、2026年4月1日以降のAI性能の進展ペースに統計的に有意な変化は見られず、独自の能力指標は月平均0.1ポイント程度の上昇にとどまったという。
今回の分析結果は、業界で懸念が広がる「再帰的自己改善」シナリオとは対照的だ。これは、AIがより高性能なAIを開発し、そのAIがさらに次のモデル開発を加速させることで、統制や検証、規制のスピードを上回る事態を指す。報告書は、こうした局面では既存の安全対策が深刻に不十分になり得ると位置付けた。
Google DeepMindの研究者、ヘイデン・ベルフィールド氏は、AI主導か否かを問わず、機械学習の研究開発全体で統計的に有意なエンドツーエンドの加速は確認されなかったと述べた。現時点では、AI主導の機械学習R&Dに伴うリスクは低いとの見方も示した。
検証には、123のAIモデルと92のベンチマークを組み合わせた社内指標「GCI v1」を用いた。この指標で見ると、Gemini系モデルの性能向上はおおむね直線的に推移している。2024年末のGemini 1.5 Proは0.5ポイント前後、2026年9月のGemini 3.8 Flashは2.9ポイント超だった。Gemini 4 Argonは約3.3ポイントでトレンド線を上回ったが、同社はこれをAIが自律的に開発速度を引き上げた結果ではなく、計算資源の拡大や組織レベルでの投資増の影響とみている。
自動化の水準も、全面的な自律には達していない。DeepMindでは、Pull Request(PR)に占めるAI生成の比率が同年4月の7.5%から9月には11.9%へ上昇した。ただ、約88%はなお追加の指示を必要とし、人が直接コードを書く工程が残っていた。
実務面の処理能力にも限界があった。社内の研究エンジニアリング課題のうち、モデルが自力で解決できたのは約半数にとどまった。DeepMindが自動化の危険シグナルとみなす90%水準とは大きな開きがある。
自動化しやすい領域と難しい領域も明確に分かれた。同社が上級管理職と研究者12人を対象に実施した調査では、「明確に定義でき、検証可能な実行課題」で自動化水準が最も高かった。一方で、「オープンエンドな科学的アイデアの探索」「新たな実験設計」「学習の不安定性の診断」「長期研究の方向性設定」では最も低かった。AIは指示された作業の実行には強いものの、どのアイデアを追うべきかを判断する能力はなお限定的だという。
こうした結果は、業界の一部で強まる警戒論とも温度差がある。AnthropicのCEO、ダリオ・アモデイ氏は、再帰的自己改善はすでに加速していると主張しており、OpenAIのCEOサム・アルトマン氏やイーロン・マスク氏もこれに同調している。数日前には、元Anthropicエンジニアのジェイコブ・コクソン氏が「AIが10年以内に全員を殺し得る」と主張して業界を去ったとの言及もあった。
もっとも、DeepMindもリスクの可能性を完全に否定しているわけではない。今回の数値はあくまで自社研究所内のデータに基づく。同じ報告書では、制限のないGemini 4 Argonが、サイバー攻撃や生物兵器関連情報の領域で危険閾値を超える可能性を排除できないとも明記した。Googleの今回の評価は、現時点の社内自動化水準を示す資料としては一定の示唆があるが、高性能モデルの安全性を巡る論争に決着をつけるものとまでは言えない。