Andreesen Horowitz(a16z)は、小規模な市・郡政府や教育委員会、地方病院を対象に、AI・セキュリティツールの提供、教育、インシデント対応を無償で支援する非営利財団「SAIF(Securing America’s Infrastructure Foundation)」を立ち上げた。ランサムウェア被害が深刻化する一方、予算や人員が限られる地域の公共機関では十分な対策を講じにくい現状を踏まえた取り組みだ。
a16zのジェネラルパートナーで、米国家安全保障局(NSA)を経てホワイトハウスで国家安全保障副補佐官(サイバー・新技術担当)を務めたアン・ニューバーガー氏は、X(旧Twitter)への投稿で、地方都市がサイバー脅威の最前線に立たされている実態を訴えた。
同氏は、ランサムウェア攻撃によって郡の911通報受付システムが停止した事例や、学区の生徒記録がダークウェブで売りに出された事例を紹介。地方病院については、「1週間診療できない事態に比べれば安いとして、10万ドル(約1500万円)を超える身代金を支払っている」と指摘した。
その上で、「これは仮説ではなく、全米で繰り返し起きている現実だ」と強調した。被害対応を担う機関の多くは、予算、人員、技術力のいずれも不足しているという。
AIの恩恵が十分に及んでいない点も課題に挙げた。アン・ニューバーガー氏は、「余力のある組織では、AIが生産性や診断、サイバー防御の強化に役立っている。一方で、こうした地域の機関は取り残されている。技術が合わないのではなく、アクセスと導入が難しいためだ」と説明した。
こうした状況への対応策として提示されたのがSAIFだ。a16zがインキュベートしたこの非営利財団は、予算と人員が限られる公共機関に対し、AI・セキュリティ分野の実務支援を無償で提供する。
a16z共同創業者のベン・ホロウィッツ氏は、「米国には、病院や地方行政サービスがAIの恩恵を受けるための資源や教育を欠いたまま、リスクだけをより多く抱えている地域がある。財団の目標はその状況を変えることだ」と述べた。
支援の進め方にも特徴がある。アン・ニューバーガー氏は、従来型の助成金事業ではないとしたうえで、「小切手を渡して、あとはうまくいくことを願うやり方ではない」と説明。「慈善活動というより、forward-deployed engineering(現場派遣型エンジニアリング)に近い。専門家が現地に入り、防御体制を構築し、運用能力が定着するまで伴走する」と述べた。
財団はまず、異なる地域にある2つの小都市で試験事業を始める。支援対象は、その地域で代替の利きにくい必須サービスを優先する。代表例として挙げたのが地方病院で、全米に約1800カ所あるという。町に病院が1つしかない地域では、サイバー攻撃で機能が止まれば住民の医療アクセスに直結するためだ。
初年度は、AIを活用したセキュリティ対策に重点を置く。例えば、MRI装置や病院モニターに組み込まれたコードの脆弱性をAIで検出し、修正につなげる取り組みを想定している。
SAIFは、a16zの創業パートナーが拠出を約束した2500万ドル(約37億5000万円)を基に、今後5年間で支援対象を5~10のアンカー都市へ広げる方針だ。
アン・ニューバーガー氏は、「難しい問題だからこそ、誠実さと謙虚さを持って取り組む」としたうえで、「まずは2都市、1分野、1つの明確な使命に絞り、意図的に小さく始める」と述べた。