オランダ・アムステルダムで、ビットコインを投資資産ではなく、文化や通貨制度を批評するための題材として扱う展示が開かれる。紙幣を解体する作品や、BIP39、ドルの購買力の変化をテーマにした作品を通じ、3人の作家が「お金」の構造とビットコイン文化の変化を問いかける。
14日、ブロックチェーンメディアのBitcoin Magazineによると、欧州のアーティストであるZetra、RYR、Cypherpunk Nowは、11月4〜6日に開催される「Bitcoin Amsterdam」で作品を展示する。展示はBMAGプログラムの一環として実施される。
今回の展示は、ビットコインを単なる技術や投資商品としてではなく、文化的な対象であり、既存の通貨体制を批評するための媒介として位置付けている点に特徴がある。通貨がどのように生み出され、流通し、偏在していくのか。さらに、ビットコインが既存の金融システムに取り込まれていく過程で、初期の理念がどう変化したのかを、アートを通じて示すという。
会場となるアムステルダムは、通貨や投機を巡る歴史的な文脈を持つ都市でもある。1720年の欧州投機バブル崩壊時には、金融熱を風刺した版画集「The Great Mirror of Folly」にもつながる土地として知られる。
また1990年前後には、デービッド・チャウムが同地でDigiCashを設立し、民間による電子通貨の実験を進めた。BMAGはこれに先立ち、通貨システムを巨大な灌漑網になぞらえた「The Waterworks of Money」展を通じて、資金の流れと構造を可視化したとしている。
RYRはドイツのグラフィティ文化を背景に活動する作家で、紙幣を細かく裂いて紙にしたり、紙幣を燃やした灰を顔料として使ったりするなど、通貨そのものを解体する作品を手がける。会場では、裁断した紙幣を詰めたコンクリート製の手りゅう弾型オブジェも展示する。
その背景には、貨幣を単なる交換手段ではなく、社会的な信頼と権力が作用する構造として捉える視点がある。RYRは貨幣について、「集団的な信頼と服従の上に築かれた叙事的システム」だと説明した。
紙幣を壊す行為についても、単なる毀損ではなく、既存の物語を断片化し、新たな物語を生み出す過程だと位置付ける。物理的な通貨を解体することで、価値が紙そのものにあるのではなく、社会的合意と信頼によって成り立っていることを示すという。
Zetraは、ビットコインのウォレット復旧フレーズに使われるBIP39の単語リストや、対ドルで見たビットコインの購買力の変化を題材にする。代表作「トマトスープ」シリーズでは、アンディ・ウォーホルのスープ缶を再解釈し、ドル建て価格の上昇と、ビットコイン基準で見た価値の変化を重ね合わせて表現する。
身近な消費財のイメージを使いながら、通貨の購買力やインフレの問題を視覚化する狙いだ。Zetraは、ビットコイン利用者がこの作品を理解しやすい理由として、法定通貨の購買力がインフレによって低下していく現象を挙げた。
BIP39シリーズでは、セルフカストディの象徴でもある2048語の単語群を、それぞれ物理的なイメージへと変換する。デジタルウォレットのセキュリティや、個人による資産管理という概念を作品化したものだという。
Cypherpunk Nowとして活動するマルティン・フィッシャーは、ビットコインの初期精神と、その後の変化を振り返る。チェコのアート集団Ztohoven出身のフィッシャーは、2014年にビットコイン決済のみを受け付けるカフェを運営したハッカースペース「Paralelni Polis」を共同で立ち上げた。
当時は、ビットコインを富の蓄積手段ではなく、検閲耐性を備えたマネーとして捉えていたという。投機的な価値よりも、社会を変える可能性に注目していたと説明した。
フィッシャーは2017年に初めてビットコインで版画を販売した後も、収益の相当部分を次の制作に充てた。ビットコインを単なる決済手段ではなく、既存の金融体制の外側で新たな活動を可能にする道具として受け止めた初期文化が、作品にも反映されているという。
3人に共通する問題意識は、ビットコインが既存の金融システムに組み込まれていく流れだ。銀行や投資ファンド、企業の参入によって市場の裾野は広がった一方、検閲耐性や金融的自立を重視した初期の理念との間には緊張も生じているとみる。
フィッシャーは、ビットコインが伝統金融と深く結び付く以上、それを反体制運動だけに位置付けるのは難しくなったとの見方を示した。そのうえで、既存システムへの取り込みは初期理念への裏切りというより、成功の過程で現れた自然な帰結だとしつつも、現在の方向性に無条件で満足しているわけではないと付け加えた。
RYRもまた、ビットコインが既存の金融体制への挑戦に成功するのか、それとも最終的に自ら変えようとしたシステムの一部になるのかは、なお見通せないと指摘した。デジタル決済の拡大によってマネーが不可視化するなかでも、価値を物理的なオブジェとして表現する試みには、引き続き意味があると説明している。
今回の展示は、ビットコインが周縁的な文化から制度化された金融資産へと移行する過程で、何が残り、何が変わったのかを検証する場となりそうだ。通貨の権威と購買力、セルフカストディの意味、そしてビットコイン初期精神の変化を扱う3作家の作品は、11月4〜6日に「Bitcoin Amsterdam」で公開される。