銀行が預金金利を引き上げると、ステーブルコインの成長ペースが鈍る――。国際決済銀行(BIS)が公表したワーキングペーパーで、銀行預金とステーブルコインが同じ資金を巡って競合する関係にある可能性が示された。
BISは10月、「ステーブルコインと銀行預金は代替財か」をテーマとするワーキングペーパーを公表した。アンダーソン金融経済研究所のラシャド・アメド研究員と、BISのイニャキ・アルダソロ・エコノミストが、2019年1月から2025年6月までの米国の週次データを分析した。
論文では、ステーブルコインと銀行預金には共通点が多いと指摘する。いずれも価値が安定し、随時換金でき、決済に利用されるうえ、利息はほとんど付かない。このため、ステーブルコインが銀行預金の代替先となり、無利息に近い預金資金を吸収するのではないかとの見方が従来からあった。
もっとも、そうした関係を裏付ける実証データは限られていた。今回の分析は、その点を数量的に示したものといえる。
分析期間中、ドル建て資産を準備資産とするステーブルコインの時価総額は、50億ドル未満から2200億ドル超へ拡大した。市場の大半は、TetherのUSDTとCircleのUSDCが占める。
分析によると、預金金利が1bp(0.01ポイント)上昇すると、ステーブルコインの10週間の累計成長率は平均で約3ポイント低下した。研究チームは、預金金利が上がるほど、ステーブルコインへの資金流入が弱まる傾向が確認されたとしている。
影響を見極めるため、論文では銀行特有の金利設定行動にも着目した。政策金利が3%未満の局面では、銀行は預金金利をあまり引き上げない一方、3%を超えると競争的に引き上げる傾向がある。政策金利に比較的機械的に連動する国債利回りとは異なる動きだという。
預金金利が政策金利に遅れて追随する点は、先行研究でも確認されている。政策金利が1ポイント上昇しても、要求払預金金利の上昇幅は平均0.06~0.08ポイントにとどまる。研究チームは、政策金利が3%を超え、銀行が預金金利を本格的に引き上げる局面に絞って効果を推計した。その結果、ステーブルコイン成長率の低下幅は約3ポイントから約9ポイントへ拡大した。
対照的に、ビットコインなど他の暗号資産は、同じ分析でステーブルコインのような反応を示さなかった。研究チームは、今回確認された成長鈍化が暗号資産市場全体の低迷によるものではなく、預金金利の上昇に起因する可能性が高いとみている。
発行体別では差も明確だった。USDCの低下幅は約5ポイントで、USDTの約2ポイントを大きく上回った。論文は、米国の機関投資家やDeFi(分散型金融)利用者の利用が多いUSDCの方が、銀行預金とより直接的に競合している可能性があると指摘する。一方、USDTは主に海外や新興国で利用されているという。
DeFiのレンディング残高も、預金金利の上昇局面では減少した。DeFiで利回りを得られる場合でも、預金との競争から切り離されているわけではないことを示す結果だ。定期預金(CD)金利を用いた分析でも、同様の傾向が確認された。
もっとも、論文の数値を過度に一般化すべきではないとの留保もある。研究チームによると、預金金利の引き上げはステーブルコインの成長を鈍らせたものの、成長そのものを反転させるには至らなかった。分析手法にも一定の限界があり、推計の信頼性を示す指標は一般的な基準をやや下回ったとしている。
今回の分析は、利息を付けないステーブルコインを前提としている。このため、利息付きステーブルコインやトークン化マネー・マーケット・ファンド(MMF)が広がれば、競争環境は変わる可能性がある。
BISは今回のワーキングペーパーで、銀行が預金金利を通じてステーブルコインの普及ペースに一定の影響を及ぼし得ると結論付けた。
また、ステーブルコインの準備資産の一部を銀行預金で保有させれば、銀行からの資金流出を抑える効果が見込める一方、預金保険の対象外となる大口預金が一部銀行に集中するリスクもあると指摘した。資金の置き場を銀行預金とステーブルコインのどちらにするかは、技術面よりも、最終的にはどれだけの利回りを提供できるかに左右されるというのが研究チームの見立てだ。