米国でIPO市場の停滞が続く中、有力AIスタートアップを巡るビッグテック各社の買収競争が激しさを増している。投資家にとっても、未上場企業の資金回収手段としてM&Aの重要性が高まっている。
米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によると、2026年第3四半期までの米ベンチャー投資額は5158億ドルに達した。一方で、イグジット環境はなお低調だ。
PitchBookと全米ベンチャーキャピタル協会(NVCA)が共同でまとめた「Venture Monitor」によれば、第3四半期にIPOを実施した企業は18社にとどまった。
企業価値が10億ドルを超える未上場のユニコーン企業は992社ある。上場のハードルが高い中、投資家にとってM&Aは有力な出口の一つになりつつあり、AIユニコーンを巡るビッグテックの動きを後押ししている。
WSJによると、AmazonはAIソフトウェアのスタートアップDecartesを、70億ドル規模で買収する交渉を進めている。Decartesは、開発者が複数のAIチップにまたがって開発できる環境を提供しているという。
AmazonによるDecartes買収は、自社製AIチップ「Trainium」でNVIDIAに対抗する戦略の一環とみられている。Decartesは2025年にTrainiumへのアクセス権を取得しており、Amazonとしては同社技術を取り込むことで競争力の強化を狙う構図だ。
Decartesは、ワールドモデル「Oasis 3」の開発も進めている。同社によれば、自動運転車を起点に、ロボットが学習と行動を通じて性能を高められる、現実的で制御可能なマルチビューシミュレーション環境の生成を目指している。
WSJは、ほかのビッグテックと比べて現実世界で事業を展開するAmazonにとって、Oasis 3の活用余地は比較的イメージしやすいと報じた。
M&Aで存在感を高めるNVIDIAの動きにも注目が集まっている。NVIDIAは足元で、中国企業が主導するオープンウェイトAIモデル分野でプレゼンス拡大を狙い、攻勢を強めているという。
NVIDIAは9月、オープンソースAIモデルのリポジトリを手掛けるHugging Faceを129億3000万ドルで買収すると発表した。あわせて、コーディングAIスタートアップPoolsideとは60億ドル規模のライセンス契約を締結した。契約には、Poolsideのエンジニアの大半を採用する内容も含まれる。
さらに最近では、オープンソースAIモデル開発のスタートアップReflectionAIへの追加出資、もしくは企業買収も検討しているとされる。
NVIDIAはすでにReflectionAIの主要投資家で、8億ドルを投じている。ReflectionAIは、Google DeepMind出身のミシャ・ラスキン氏とイオアニス・アントノグル氏が2024年に設立した企業で、5日に初のオープンウェイトモデル「Beam」を公開した。
英フィナンシャル・タイムズ(FT)によると、交渉はまだ初期段階にある。取引手法はいくつか想定されており、規制審査を回避しやすい方法として、企業自体は買収せず、従業員の採用と技術利用権の取得にとどめる「acqhire」方式も選択肢に入っているという。
Salesforceも最近、AIを活用した顧客調査スタートアップListen Labsの買収方針を固めた。取引条件は公表していないが、以前に取り沙汰された買収額は約20億ドルとされる。
Listen Labsは、顧客調査業務を担うAIエージェントを開発してきた。調査対象者の選定からインタビュー、回答分析、行動シミュレーションまでを担う。参加者募集ネットワークは5000万人超で、120以上の言語でインタビューに対応する。
Salesforceは6月にも、AIエージェントのスタートアップFinを36億ドルで買収している。
カスタマーサービス向けAIエージェントを手掛けるDecagonを巡る動きも表面化している。米Business Insiderは、DecagonがServiceNowを含む複数企業と買収に向けた初期協議を進めていると報じた。
報道によると、DecagonはServiceNow以外の企業とも売却について協議したという。買収が成立しない場合は、新たな資金調達に動く可能性がある。今年初めの投資ラウンドでは、同社の企業価値は45億ドルと評価された。
Decagonは2023年7月設立。生成AIを使って企業の顧客対応業務を自動化するAIエージェントを提供している。顧客にはDelta Air Lines、Snapchat、Ticketmasterなどが名を連ねる。