釜山国際映画祭に合わせて開催されたアジアコンテンツ&フィルムマーケット(ACFM)2026で、AIを活用した映像制作の可能性を巡る議論が交わされた。登壇した監督やプロデューサーらは、AIが制作現場を大きく変えつつあると評価する一方、没入感の設計やカットのつながり、最終的な品質判断は人間の役割だとの認識で一致した。
ACFM 2026は10月11日、釜山展示コンベンションセンター(BEXCO)で開かれた。会場では、韓国と中国のクリエイターがAIによる映像制作の経験を共有するセッションも実施された。
AI映像生成サービス「Kling AI」は同イベントで、「新たな映画的可能性:Kling AIで映画制作を再構想する」をテーマにパネル討論を開催した。登壇したのは、映画「ソウルの春」「アシュラ」で知られるキム・ソンス監督、中国のアニメーション映画監督リ・ウェイ氏、オリジナルIPと生成AIベースのコンテンツ制作を手掛けるMuamのハン・ヘリ代表、MBC C&IのAIコンテンツラボに所属するイ・サンウクプロデューサーの4人。それぞれがKling AI 4.0を使った制作経験や成果、今後の構想を語った。
キム・ソンス監督は、Kling 4.0で制作したAI短編映画「Worm Train」を会場で初公開した。AI映画制作に踏み出した理由について、「頭の中のイメージをすぐに検証できることが大きかった」と説明した。
同監督は「『ソウルの春』では、思い描いた場面を現場で確認するまで4年以上かかったが、Klingなら2日で形にできた」と語った。
一方で、映画としての完成度を左右するのは、なお人間だと強調した。「良い画像を10枚並べても映画にはならない。AIはまだ、カットとカットの間に生まれる“間”を作れない」と述べた。
さらに「映画には、あるカットと次のカットがぶつかる瞬間に生まれる緊張や感情がある。AIは映像を無限に生成できても、その衝突や空白までは作れていない」と指摘した。
「優れたAI映像は数多くあるが、観客が没入して楽しめる映画はまだ多くない。没入は数秒で決まる」とも語り、短時間でキャラクターやイメージに引き込むには、AI任せではなく、映画制作の専門家が領域ごとに関わる必要があるとの見方を示した。
その上で「同じカメラを渡しても、傑作を撮る人もいれば平凡な映像に終わる人もいる。どの画をどこに置き、何とぶつけるかは、AIが判断できることではない」と述べた。
「Worm Train」は、カフカの「変身」を脚色した作品。通勤時間帯の満員地下鉄を舞台に、虫になった青年が隙間なく詰め込まれた乗客たちとぶつかり合う中で、かえって孤立を深めていく物語だ。10月末の公開を予定している。
キム監督は「3月時点では、乗客同士がぶつかる場面をAIで表現できず作業を止めていたが、8月にKling 4.0を見て再開した」と説明した。Kling 4.0のプレビュー版で地下鉄のシーンを制作したところ、衝突の質感や重量感がそのまま画面に表れたという。
また、AI映画であっても「Worm Train」には従来の映画制作と同じチーム制作の手法を持ち込んだと明らかにした。「1人で作るのではなく、9人のチームを組み、実写映画の現場と同じ方式をそのまま適用した」と話した。
チームには、AI映像制作者のほか、今年初めてAI映像を学んだ若手、アニメーション美術監督、劇映画編集者、音楽監督などが参加している。地下の小部屋でそれぞれが生成したシーンを持ち寄り、議論しながら生成と編集を同時並行で進めており、進捗率は約70%だという。
キム監督は、Klingのような汎用AIモデルは「すべての人のための道具」だからこそ、制作者は固有の意図を生かすことに最大限配慮すべきだと述べた。現在は全7話のシリーズ作品も企画しており、10分を超える大規模な追跡シーンをAIで先行試作した上で実写撮影に入る手法も活用していく考えを示した。
Muamのハン・ヘリ代表は、Kling AIと協力して進めているAI・実写ハイブリッド長編映画「Natasha」の制作経験を紹介した。ハン氏はMBNのプロデューサー出身で、2020年にMuamを設立。暗号資産ルナの暴落事案をモチーフにした実話ベース映画「Crash」も手掛けている。
「Natasha」は100分の長編作品で、ミステリー、スリラー、ロマンス、時代劇の要素を併せ持つ。詩人ペク・ソクの詩「私とナターシャと白いロバ」から着想を得ており、1940年代の日本統治期の厳冬を背景に、声を失った人物と、村の災厄を代わりに背負った魔女との愛を描くという。
ハン氏は、AIを使う場合でも制作プロセスを最終的にコントロールするのは人間の役割だと強調した。AIで映像を生成することと、観客に届ける完成作品に仕上げることは全く別の問題だと指摘する。
劇場公開作品やグローバルOTT向け作品として成立させるには、監督が最後まで画面をコントロールしなければならないと述べた。望む構図や動き、光や質感を実現し、カット間のつながりを維持してこそ、ポストプロダクションを経て公開まで耐えうる作品になるという。
Kling 4.0を活用した「Natasha」の制作では、Kling 4.0に含まれるHDR(High Dynamic Range)機能を高く評価した。「実写素材にAI映像を加えると、以前は絵が浮いて見えることが多かったが、Kling 4.0のHDR機能をテストしたところ、その差はごくわずかなレベルだった」と語った。
Kling 4.0は10ビットHDR出力にも対応しており、駅の通路や夜景のような暗い場面でもディテールを保ちながら、カラーグレーディングの余地を確保できたという。群衆シーンが多い作品だけに、サウンドをきめ細かく生かせる点も有用だとした。
ハン氏は、AI映画ではディレクターの役割が一段と重要になるとも指摘した。「AI映像が画一的に見えるのは、それを引き受けるディレクターがいないからだ」と述べ、Muamでは実写短編を少なくとも1本演出した経験のある人材をAIアーティストとして採用していると説明した。
MBC C&Iのイ・サンウクプロデューサーは、ショートフォームドラマ「Rendering Love」の制作手法を紹介した。「Rendering Love」は2分×40話で構成されるK-POPロマンティックコメディーで、正体を隠したバーチャルアイドルと、その正体に気付いた女性の物語を描く。MBC C&IはAIパートを担当して制作に参加している。
イ氏によると、題材が仮想と現実の境界にまたがるため、制作手法も二つに分けた。現実世界は実写で撮影し、ステージ上のアイドル活動はAIで表現した。視聴者がAI映像に抱く違和感を抑えるため、ハイブリッド方式を選んだという。
ドラマに登場するバーチャルアイドルグループは、作品の外でも活動する。メンバーは実在の人間としての顔と、AIバーチャルキャラクターとしての顔の二つを持つ。
MBC C&Iは、グループ各キャラクターのデザイン登録と著作権登録を終え、専門家とともにOSTアルバムの制作も完了した。ドラマ内のキャラクターを実際のバーチャルアイドルとして展開し、ファン活動やライブへつなげるビジネスモデルを基盤に、楽曲、ライブコンテンツ、ブランド提携を含むマルチIPプロジェクトへ育てていく構想だ。
イ氏は「Rendering Loveは、キャラクターの背後にいる本当の人を見つめる物語だ」とした上で、「AI時代のコンテンツも結局は、技術の背後にいる人の物語になる」と強調した。
リ・ウェイ監督は、Kling AIを活用して制作した初の劇場向けAI長編アニメーション「Danga Fengyun(Born of the Tide)」の演出経験を共有した。「以前なら、費用も時間も見積もれなかったはずだ。AIのおかげで、大規模なシーンを劇場スクリーン向けに繊細に描けるようになった」と述べた。
ただし、AIへの過度な依存には警鐘を鳴らした。「道具が変わるたびに生産性の課題は改善されてきたが、何を表現するかを十分に考えなければ、思考そのものをAIに預けてしまう」と語った。
その上で「AIは数千もの波を作れるが、その中から何を選ぶかを決められるのは監督だけだ。AIが人間を置き換えるかどうかを過度に不安視する必要はない。重要なのは、どんな道具を使うかではなく、物語をどう伝えるかだ」と話した。