韓国政府は、フィジカルAIの技術開発から実証、商用化、設備投資までをつなぐ支援体制の整備に乗り出す。2027年の関連予算は計3兆1000億ウォンとし、金融面では国民成長ファンドを活用して長期投資を拡充。企業の事業化や大規模インフラ投資を後押しする。
科学技術情報通信部は10月13日、ソウル・COEXで開いた「フィジカルAIテックウィーク」で、省庁横断のフィジカルAI事業説明会を開催し、関係省庁ごとの支援策と投資方針を公表した。
政府が2027年のフィジカルAI分野に計上した予算は3兆1000億ウォンで、2026年の9000億ウォンから3倍超に増える。説明会では、科学技術情報通信部や中小ベンチャー企業部が新規事業の支援内容と公募日程を示したほか、金融委員会が国民成長ファンドの活用策を説明した。
◆金融委員会、フィジカルAI向け長期投資を拡充 企業の直接提案も受け付け
金融委員会は、フィジカルAI産業の育成に向け、技術開発から商用化まで長期にわたって資金を供給する体制を強化する。
キム・ギホン金融委員会・国民成長ファンド推進団先端産業2課長は、韓国の先端産業は高い技術競争力を持つ一方、民間投資の不足により、グローバル市場への進出や事業規模の拡大で苦戦しているとの認識を示した。
特にフィジカルAIのように、技術開発、実証、量産設備の整備に多額の資金と長い時間を要する分野では、既存の民間投資だけでは成長に限界があるという。金融委員会は国民成長ファンドを通じ、長期投資と産業エコシステム全体への資金供給を進める方針だ。
国民成長ファンドは、先端戦略産業基金75兆ウォンと民間金融圏などの資金75兆ウォンを組み合わせ、今後5年間で計150兆ウォンを供給する政策金融プログラムだ。政府は年間供給額を40兆ウォン超に引き上げ、全体の運用規模を200兆ウォン超へ拡大する案も進めている。
金融委員会は、国民成長ファンドの間接投資プログラム「超長期技術投資ファンド」を通じ、技術開発に必要な長期資金を供給する計画だ。2026年は8800億ウォン規模での組成を進めており、延長を含め最大16年の運用を可能にする設計とした。
資金供給の手段は、直接投資、間接投資、インフラ向け投融資、超低金利融資に分ける。技術企業の成長段階に応じた株式投資に加え、生産設備やデータセンターなど大規模インフラの整備にも資金を振り向ける。
金融委員会は、半導体、フィジカルAI、AIデータセンターの3大メガプロジェクトを軸に大型投資需要を掘り起こし、関係省庁の研究開発・実証事業と金融支援を連動させる考えだ。
支援対象は、AIモデルやロボットを直接開発する企業にとどまらない。先端戦略産業向けの生産・運営に必要な装備を供給する企業や設備構築を担う企業、関連技術に投資する企業、さらには生産物を購入する需要企業も対象に含める。
国民成長ファンドは韓国産業銀行が運営する。企業はファンドのホームページで対象要件や手続きを確認し、投資や融資の支援を申請できる。金融委員会は、政府省庁や地方自治体、金融機関などが有望案件を推薦する「成長企業発掘協議体」も運営している。
企業が協議体に事業を直接提案することも可能だ。提案案件は、産業エコシステムへの波及効果、成長可能性、政策上の必要性などを踏まえて検討し、韓国産業銀行の審査と関連委員会の審議を経て支援の可否を決める。
キム課長は「省庁間の連携を強化し、技術開発から事業化、グローバル市場進出まで積極的に支援する」と述べたうえで、「長期の技術開発から商用化まで、バランスの取れた投資が行われるよう取り組む」と語った。
◆科学技術情報通信部、基盤技術から学習データ、物流実証まで支援
科学技術情報通信部は2027年、フィジカルAIの中核技術開発、学習インフラ整備、物流実証の3つの新規事業に計1210億ウォンを投じる計画だ。
情報通信企画評価院(IITP)は、550億ウォン規模のフィジカルAI中核技術開発事業を進める。従来のロボットによる限定的な反復作業を超え、多様な環境で自律的に判断し作業できる汎用フィジカルAIのファウンデーションモデル確保を目指す。
キム・ウクIITPフィジカルAI PMは、「単純作業ではなく、自律的に任務を完遂できることを目標としている」と説明した。新たな作業や環境への適応、複数作業の連続的な計画・実行能力の確保を狙う。
また、ロボットが実際の現場で作業して生成したデータをAIモデルの学習に再活用する好循環の構築も構想する。モデル性能の向上が、ロボットの作業能力向上につながる仕組みだ。
IITPは年内に事業の詳細を企画し、11月の公聴会を経て、2027年1月に課題を公示、3月に選定評価を実施する予定としている。
情報通信産業振興院(NIPA)は、フィジカルAI実証・普及事業に260億ウォン、トレーニングセンター構築事業に400億ウォンをそれぞれ投じる。
ユ・ハンジョンNIPAフィジカルAIチーム長は、実証・普及事業を通じてフィジカルAIを公共物流の現場に適用し、検証済み技術を民間分野へ広げる方針を示した。
実証・普及事業の中核は、郵政事業本部の物流工程へのフィジカルAI導入だ。既存の自動化設備が規格化された郵便物の処理に集中しているのに対し、フィジカルAIを活用して、形状や材質が多様な非定型郵便物まで処理できるようにする。
AIモデル・データ関連企業と郵政事業本部などが参加する2件程度のコンソーシアムを支援する計画で、2027年3月の公示を予定している。
トレーニングセンターは、ロボットを遠隔操作するテレオペレーション基盤の学習環境などを整備し、企業が実機ロボットを用いて行動データの生成、学習、検証を行えるよう支援する事業だ。
各社が大規模な学習設備を自前で整備しにくい課題を解消し、共用の学習インフラを通じてフィジカルAI開発に必要なデータ確保を支援する。2027年3月の事業公示と4月の評価を経て、センター整備に着手する予定だ。
◆中小ベンチャー企業部、中小製造業にフィジカルAI導入 最大45億ウォン支援
中小ベンチャー企業部は2027年、1728億ウォン規模の「中小製造企業フィジカルAI実証支援事業」を新たに進める。今後3年間で国費計4400億ウォンを投じる計画だ。
従来のスマート工場事業が生産設備のデジタル化と自動化に重点を置いていたのに対し、新規事業ではAIロボットを製造現場に直接投入し、非定型作業や危険工程の改善に軸足を置く。
事業は、一般工程実証、危険・有害工程実証、技術実証、統合実証の4分野で構成する。
一般工程実証では、中小製造業の人手不足解消に向け、手作業中心の工程にフィジカルAIを導入する。最大2年間、国費10億ウォンを支援し、国費補助率は70%以内とする。
危険・有害工程実証では、安全事故や労働災害のリスクが高い製造現場にAIロボットを適用する。最大2年間、20億ウォンを支援し、国費補助率は70%以内とする。
技術実証は、AI・ロボット企業と製造企業などが連携し、現場適用の可能性を検証する方式で進める。実証類型に応じ、1年間で国費2億~4億ウォンを支援する。
統合実証は、個別技術を組み合わせてAI基盤の製造工場を構築する事業だ。事前設計・検証で優秀課題を選定し、本格構築段階では年15億ウォンを3年間、最大45億ウォン支援する。
中小ベンチャー企業部は、個別ロボット技術の実証にとどまらず、製造工場全体にフィジカルAIを適用した事例の創出を目指す。
◆農業・港湾にも展開 省庁横断で実証体制を整備
他省庁も、産業ごとの特性に合わせたフィジカルAI事業を進める。
農林畜産食品部は、5年間で約750億ウォンを投じる韓国型の無人自律農業生産技術開発事業を準備している。
キム・ヨンジュ農林食品技術企画評価院PDは、農業は土壌など非定型環境の影響を大きく受け、熟練者の経験に依存する作業が多い点を課題に挙げた。政府は農作業データを確保し、AIモデルと自律農機を連動させることで、耕作から収穫まで一貫した自律生産体制の開発を進める方針だ。
海洋水産部は、港湾クレーンや搬送設備の自律化、エージェントAIを活用した港湾運営最適化などの新規事業を推進する。
パク・ヨンヒョン海洋水産科学技術振興院・海事港湾チーム長は、既存の自動化港湾でも一部作業では遠隔制御や手動介入が必要だと説明し、港湾設備の全区間自律化と運営システムの高度化に向けた技術開発計画を紹介した。
政府は、各省庁に分散している技術開発と現場実証を連携させ、国民成長ファンドなどの政策金融を通じて民間の事業化につなげる支援体制を構築する方針だ。