欧州連合(EU)理事会は、暗号資産サービス事業者のうち大手企業に対する監督を、各国の規制当局から欧州証券市場監督機構(ESMA)へ移す方針で一致した。MiCA(暗号資産市場規則)のパスポーティング制度に伴う監督上の空白を埋める狙いがある。ESMAの直接監督の対象は、約360社のうち10〜15社に限られる見通しだ。
CryptoSlateが12日(現地時間)に報じたところによると、EU理事会は9日、主要な暗号資産サービス事業者をESMAが直接監督するための交渉方針で合意した。立法手続きはまだ完了しておらず、理事会が正式な交渉方針を確定した後、欧州議会との最終調整に入る。
今回の見直しは、MiCAのパスポーティング制度に伴う監督の穴を補うことが目的だ。同制度では、事業者がEU加盟国のいずれかで認可を取得すれば、追加の法人設立や物理的拠点の設置なしに、EU27カ国で認可済みサービスを提供できる。
一方で、重複した認可取得の負担を減らせる半面、事業規模や顧客資産が拡大した場合、最初に認可を与えた国の監督だけでは十分に対応できないとの懸念が出ていた。
ESMAはこれまで、主要な論点が解決しないまま認可が下りた案件があるとして問題視してきた。ガバナンスや利益相反、技術インフラ、カストディ体制、一部のマネーロンダリング対策リスクについて、十分な審査が行われたと判断できる材料が乏しいとみていたためだ。
ただし、ESMAがマルタの認可を一律に不十分と評価したわけではない。マルタ当局の専門性や監督リソースは認めつつ、認可手続きの改善を勧告していた。
マルタは勧告を受け入れる一方、同年9月には、MiCA施行当初から監督権をESMAへ移すのは時期尚早だとして反対していた。監督の中央集権化が官僚主義を強め、競争力を損なう恐れがあるとの立場を示していた。
今回の折衷案では、欧州委員会が当初示した全面移管案から対象を大幅に絞り込んだ。現在の想定では、約360社のうちESMAが直接監督するのは10〜15社にとどまり、大半の事業者は引き続き各国当局の監督下に置かれる。
草案では、EU域内の月間アクティブ利用者が1500万人以上の事業者を、直接監督の対象と定義した。この基準に達しなくても、顧客基盤、カストディ資産、取引規模、金融システムとの連関性など5つの重要性基準のうち3つを満たせば、対象となる可能性がある。
具体的な基準には、アクティブ利用者100万人超、カストディする暗号資産が10億ユーロ超、年間の顧客取引額が40億ユーロ超などが盛り込まれた。
見直し案が実現すれば、ESMAは直接監督の対象企業に対し、資料提出の要求、立ち入り検査、違反調査、金銭制裁を行えるようになる。規制要件を満たさない場合には、サービス提供の制限や認可取り消しも可能とする。
各国当局が監督を担う事業者についても、ガイドラインやピアレビュー、共同調査、一部の介入権限を通じて、国ごとの規制執行のばらつきを抑える方針だ。
ESMAの内部体制の見直しも検討されている。議長と独立メンバー5人で構成する常設の執行理事会を設け、個別企業の監督や組織運営に関する意思決定を担わせる案だ。各国の規制当局は、政策全般の調整や監督協力に引き続き関与する。
監督権移管の移行期間は2年とされた。この間、共同チームを通じて関連情報や実務上の責任、専門知見をESMAへ引き継ぐ。直接監督の対象に指定されても、既存のMiCA認可は有効であり、監督主体の変更だけを理由に再認可を受ける必要はない。
今後の交渉では、直接監督の詳細基準やESMAの監督能力、基準の境界線上にある事業者の扱いなどが主な争点になる見通しだ。欧州議会が独自の立場を固め、理事会との協議に入れば、最終的な対象企業の範囲や施行時期もより具体化するとみられる。